第45話 贅沢な悩み

 今日は久しぶりに風紀委員が休みだ。


 やったぜ!


 対抗戦までしばらくローテーションを組んで、風紀委員の仕事を回していくらしい


 というのも風紀委員は全員・・・対抗戦の候補者に選ばれているからだ。


 もはや戦闘部隊だろ。


 こんな部隊用意しないと取り締まれない学校とか、アウトでしょ。


 と、それはさておき。


 俺は久しぶりにミーアと訓練をしていた。


 手合わせをしながら、互いの動きを確認し合う。


 魔力の流れを意識しながら、攻防を繰り返す。


 俺の場合、他人よりも魔力が多い分、雑な魔力操作でも戦えてしまう。


 だから、オリヴィアやミーア、サイモンのような相手とも渡り合えるのだが、技術はまだまだだ。


「――――」


 どん、どん、どんと打撃音が響く。


 ミーアの動きが次第に速くなってくる。


 それに合わせて、俺は魔力の出力を上げていく。


 体中から汗が吹き出てきた。


 ただでさえ暑い訓練場なのに、全身に魔力を込めてるから余計暑い。


 体が沸騰するような熱さになっている。


「ッ……」


 汗が目に入り、一瞬だけ動きが鈍る。


 ミーアが俺の動きを見逃さず、果敢に攻めてきた。


「――ドンッ」


 魔力を練り上げ、かろうじて攻撃を防ぐ。


 魔力量でなんとか戦っているが、技術はミーアのほうが上だ。


 しばらく訓練が続く。


 その後、示し合わせたかのようにお互い動きを止めた。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です、師匠」


 いい汗掻いた。


 ちょっと汗掻きすぎの気もするけどな。


 でもそのおかげで、今ではしっかりスリムな体型になっている。


 こんな訓練続けてたら、そりゃあ痩せるわな。


 タオルで汗を拭き、水を飲む。


 ミーアと一緒に訓練場の隅にちょこんと座った。


「アランくんは本当にすごいですね」


「なにが?」


「魔力操作の上達度です。二ヶ月弱でここまで扱うようになれるとは思いませんでした」


 そっか。


 まだ二ヶ月くらいしか経ってないのか。


 今日までの日々が濃密過ぎて、もっと経っていると思っていた。


「ミーアのおかげだよ」


「ありがとうございます。でも、もう私が教えることはなさそうですね」


 ミーアが寂しそうに言う。


「そんなことないから。まだまだミーアの足元にも及ばないし」


「いえ、アランくんの魔力操作は完璧です。あとはオリヴィアさんに聞いてください」


 なんかそう言われると悲しいな。


 ミーアは俺の師匠なのに。


「まだまだミーアに聞くよ。ていうか、ミーアとの訓練は楽しいし。こういう関係じゃなくなっても続けていきたい」


 オリヴィアの訓練はかなりキツイ。


 ためにはなるんだけどさ……。


 あの人、手加減というものを知らんから。


 オリヴィアいわく「お前だけ特別指導してやってるんだ。感謝しろ」ということらしい。


 そんな贔屓はいらないんだけど。


 特別指導なら、他のことを手取り足取り指導してほしいっす。


 そしたら全力で感謝するのにな……。


「私も楽しいですよ。アランくんと一緒にいられればなんでも、どこでも」


 そう言われると照れるな。


 でも、ちょっとニュアンス違うくね?


「ところで、ミーアは対抗戦に出たことある?」


「いえ今年が初です」


「珍しいな」


「珍しくはないですよ。選ばれたのはアランくんのおかげですし」


「いやそれはないと思う」


 俺、何もやってないからね?


 候補者決める権限とかないし。


 オリヴィアならそういう権限もありそうだけど。


「アランくんが風紀委員に誘ってくれたおかげですよ。風紀委員でなければ、私が候補者に選ばれるはずがありません」


 オリヴィアの後ろ盾が大きいってことだろうな。


 ってそれ、オリヴィアのおかげじゃね?


 俺、大して役に立ってないじゃん。


「じゃあ風紀委員入って良かったんだな」


「はい」


 ミーアを風紀委員に誘ったのは間違いじゃなかったらしい。


 実はちょっと、申し訳ない気持ちもあったんだよね。


 風紀委員の激務をミーアに押し付けちゃったことととか。


 でも良かった。


 ちゃんとミーアのためになってて。


「これでミーアの凄いところ、もっとみんなに知ってもらえる」


「アランくんがわかってくれていれば大丈夫ですよ」


「え……あっ、うん……」


 俺はみんなにも知ってほしいんだけどな。


 つくづく思うけど、ミーアって謙虚だよな。


「それで出場するのは個人戦? 団体戦?」


「個人戦です。団体戦は候補に選ばれてないので。アランくんは?」


「どれにしようか迷ってる」


「新人戦か個人戦か、迷いますよね」


「いや団体戦も呼ばれてるんだ」


「え? ……それはすごいですね。でもアランくんなら納得です」


 納得されちゃったよ。


「ミーアはどれがいいと思う?」


「私ですか? そうですね……個人戦に出てほしいですね」


「え、なんで?」


「アランくんと本番で戦えるのは楽しそうですから」


 ミーアが好戦的な笑みを浮かべる。


 ミーアもそうだけど、風紀委員に入るような連中は戦いが好きなやつが多い。


 そういう人たちじゃないと風紀委員は務まらないんだろうけど。


 例外はテトラくらいだ。


「でも、何に出るかはアランくんが決めることです。3つも候補に選ばれるなんて贅沢な悩みです。しっかり悩んでくださいね」


「……まあそうだよな」


 大抵の生徒は候補者にすら選ばれない。


 出場枠に限るがあるから、当たり前の話なんだけど。


 学園を背負って出場するわけだし、ちゃんと考えないとな。


 その後、二、三回手合わせをしてから訓練を終えた。


 そしてミーアと一緒に訓練場を出る。


 その瞬間だ。


「アラン。少しいいか?」


 訓練場の前に立っていたジャンに声をかけられた。

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