第44話 対抗戦ってなに?

「お前対抗戦はどうするつもりだ?」


「はい? なんのことです?」


「とぼけるな。学園の一大イベント、他校と行われる合同試合のことだ」


「あ~、なんかそんなのもありましたね」


「そんなのってお前……。対抗戦をそんなものと片付けるのはお前くらいだぞ」


「スミマセン」


 まあ最近は風紀委員や魔法陣の研究で忙しかったし。


 妹の件でも大変だった。


 そういえばクラスの奴らが対抗戦のことで騒いでたな。


 たしか2、3週間後にあるんだっけ?


「それでお前はどうするんだ?」


「えっと……どうすると言われましても……」


 何をどうすればいいの?


「まさかかと思うが、対抗戦についてなにも知らないのか?」


「……はい」


 オリヴィアがため息をつく。


 この人、ため息つく回数多いよな。


 苦労してるんだな、きっと。


 そんなに眉間にシワ寄せてたら、美人が台無しだぞ。


 スマイルって大事だと思う。


 苦労かけてる俺が言えることじゃないけど。


「対抗戦はトーナメント方式の個人戦と五人一組の団体戦がある。ちなみに団体戦は控えも入れると六人になる」


「団体戦って五人対五人で戦うんですか?」


「ん? 何が言いたい?」


「五対五のチーム戦で戦うのか、一対一の個人戦を五回やるか、どっちなんですか?」


「一対一のほうだな。先に三勝をあげたチームが勝ちだ。ちなみに新人戦もあるが、そちらも団体戦となっている」


 なるほど、と俺は頷く。


 新人戦ってことは一年生だけが出るやつなんだろうな。


「新人戦や団体戦は何チーム出場するんですか?」


「学院側と学園側でそれぞれ一チームずつだ」


 学院というのは、イースベルク王立学院のことであり、魔法学園うちと並び称される名門校だ。


 ちなみに魔法学園とイースベルク王立学院は国内の二大魔法教育機関らしい。


「二チームだけなんですね。意外と少ない」


「団体戦は時間がかかるからな。だが、その分盛り上がるぞ」


「へー、なんか面白そうですね。ワクワクしてきました」


 この世界は娯楽が少ない。


 前世が娯楽で溢れ過ぎていたとも言えるんだけど。


 スマホ一つあればどこでも遊べた時代が懐かしい。


 娯楽が少なくて発狂しそうだったけど、これで対抗戦という楽しみができた。


 屋台とかあるかな?


 試合観戦しながらコーラ飲めたら最高だろうな。


 まっ、コーラはないんだけどね。


「やる気があってなによりだ」


「やる気?」


 気合い入れて観戦しますけど。


 まさか観客同士で暴動とか起きちゃうわけ?


 ……有り得そうだ。


「お前も対抗戦に出るんだろうが」


「へ? 僕が?」


 どういうこと?


「何を不思議がってる? 当然だろう」


「そういう話は来てないんですけど」


「候補者が発表されるのは対抗戦の二週間前だからな。そこから調整が入り、一週間前には出場者が決定する」


「それで、なんで僕が?」


「実力的に考えたら、まず間違いなく新人戦の候補者には選ばれる。個人戦も名前が上がるだろうな」


「個人戦は一年生枠とかあるんですか?」


「ない」


「そもそも何人選ばれるんですか?」


「各学校からそれぞれ16名が選出される。そこからトーナメント方式で戦い合う」


 全学年で16人ってことか。


 一年生の俺が選ばれるなんて無理があるだろ。


 ……いや、案外いける気がしてきた。


 学園内で、俺の実力がどのくらいかは知らんけど、上位にはいると思う。


「先輩を差し置いて僕が出るなんて申し訳ないです」


「申し訳ないってことは出られる自信はあるんだな?」


「それは言葉の綾というやつですよ」


 そうやって言葉尻をとらえるの良くないと思うよ?


「なんなら私が推薦してやろうか?」


「いや、いいです。そんなんで選ばれても嬉しくないですから」


「真面目なやつだな。まあ順当にいけば、選ばれるだろうよ」


「そういうオリヴィアさんはどれに出るんですか?」


「個人戦だ。三冠を取りにいく」


「え、三冠?」


 めちゃくちゃカッコいいな。


 三冠って冠が三個だろ。


 縦に3つ並べられるやん。


 いや、縦に並べる意味はないか……。


「ということは昨年と一昨年は優勝したわけですよね?」


「そうだ」


「すごっ。オリヴィア先輩のこと尊敬しました」


「普段から尊敬しとけ」


 いや、普段からも尊敬してるよ?


 こんな大変な風紀委員長をやってるところとか、尊敬しかない。


 俺には絶対に無理だから。


「マジリスペクトパねーわ」


「喧嘩売ってるのか?」


「すみません。冗談です」


「まあシャーロットが団体戦に出てくれたおかげもある。あいつが個人戦に来てたら、優勝はもっと難しかっただろう」


 シャーロットはヤバ強いって聞くしな。


「個人戦と団体戦、同時には出られないんですか?」


「無理だ。それぞれ別会場で行われるし、試合時間も被る」


「そもそも、なんでシャーロット様は団体戦なんですか? いやどっちが良いとか、そういう話ではないんですけど。あれだけ強いなら、個人戦に出たほうが活躍できる思います」


「私とシャーロットが個人戦に出場してしまうと、ポイントを潰し合うことになるからだ」


「ん、どういうこと?」


「お前本当に何も知らないんだな」


「すみません」


 またオリヴィアがため息を吐いた。


 そんなにため息ばっかついてると、幸せが逃げちゃいますよ?


「個人戦、団体戦、新人戦で総合ポイントが高い学校が勝者となる。まず個人戦トーナメントだが、優勝者には10ポイント入る。準優勝で5ポイント、3位で3ポイント、4位で2ポイント、ベスト8で1ポイントだ。ここまではいいか?」


「はい。大丈夫です」


「次に新人戦。これは勝ったチームに10ポイント入る。最後に団体戦だが、勝ったチームには15ポイント入る」


 へ~、なるほど。


 意外と新人戦のポイントが高いんだな。


「たしかにそれなら、オリヴィアさんとシャーロット様が個人戦で潰し合うのは良くないですね」


「そういうことだ。さらに言えば、私が個人戦で優勝し、シャーロットが団体戦で勝利すれば、その時点で学園側の勝ちが決まる」


 ん?


 ちょっと待って。


 どういうこと?


 ……あっ、そういうことか。


 全体のポイント数は49ポイントに設定されており、25ポイント取った時点で勝ちが決まる。


 個人戦優勝で10ポイント、団体戦勝利で15ポイント、合計25ポイントという計算だ。


 個人戦をオリヴィアに任せて、あとの有力選手を団体戦に回すという戦術も考えられる。


 オリヴィアが優勝する前提ではあるが……。


「ポイント数だけ考えれば、お前には新人戦に出て欲しい。だが決めるのは本人だ。私を倒すために個人戦に出場しても文句はいわん」


「良いんですか? 三冠を止めることになりますよ?」


「大きく出たな」


「冗談です」


 一対一で言えば、オリヴィアはマジで強い。


 干渉魔法がチートすぎる。


「まあひとまず、候補者に選ばれてから考えます」


 捕らぬ狸の皮算用って言葉もあるくらいだしな。


 選ばれてもないうちに考えても仕方ない。


◇ ◇ ◇


 そして翌日。


 俺は個人戦、新人戦、団体戦すべての候補者に選ばれた。


 マジか……。


 どれに出ようか迷うな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る