第22話 笑って

 フハハハッ!


 今なら魔王とかも余裕で倒せるぜ!


 魔王がいるかはしれんけど。


 でも、ここって剣と魔法の世界だし、魔王もいるんじゃね?


 なんなら俺が魔王やってもいいけど。


 これぞ俺TUEEEEEEEEE!


 今の俺にできないことはない!!!


 ちょっとっとミーアの腹に刺さった短剣を引き抜いてくるわ。


 勇者が聖剣を抜くように、ちょちょちょっとね。


 そして勇者よろしくミーア姫を救ってさしあげよう。


 あっ、でもちょっと体が熱いかも。


 魔力をドバッと出したから、体温が急激に上昇する。


 経験したことのない、異様な熱さだ。


 全身がキシキシと悲鳴を上げる。


「……ッ」


 体が動かない。


 不自然なほど体が発熱してる。


 人間には魔力を流す、魔力回路というのが備わっている。


 そこに許容量以上の魔力が流れると、膨張し、発熱するらしい。


 そうならないためにも、魔力回路はゆっくりと広げていく必要があるとかなんとか……。


 なるほど。


 ってことは今の俺、体の魔力回路が膨張しまくってるってことだな。


 急激に魔力回路を活性化させると、体が魔力に耐えきれず、最悪死んでしまうらしい。


 でも、きっと大丈夫!


 だって主人公だし!


 主人公最強説じゃい!


 なんかテンション上がってきた!!!


 ヤク打った後のような高揚感だ。


 いや麻薬使ったことはないんだけどね。


「――――」


 ふと目を上げると、ミーアと目があった。


 ミーアの目には未だ憎悪が浮かんでいるようだ。


 やっぱり、そんな目は似合わないと思った。


 だからミーア――


「――笑って」


 魔力操作に集中する。


 魔力回路をむりやりこじ開ける。


 血管が膨張し、筋肉が悲鳴を上げる。


 全身が魔力に包まれた。


 そして――ドンッ。


 地を蹴る。


「――――」


 俺は一瞬でミーアとの距離を縮めた。


 ミーアの周りは台風の目のように、風がまったくなかった。


 ミーアが顔を上げる。


「アラン……くん?」


「ミーア。助けにきてやったぞ」


 ってな感じでカッコつけたはいいけど……。


 思った以上にキツイな、これ。


 大量に汗を掻く。


 体が異常なほど発熱している。


 ちょっとくらくらしてきた。


 体と魔力の両方の制御が効かない。


 マジで魔力出しすぎた。


 主人公ならなんとかなるんじゃね?


 って感じでちょっとなめてましたわ。


 指先一つ動かすのも億劫だ。


 でもそのおかげでミーアに近づくことができた。


 あの暴風の中を一瞬で距離詰められたのも、魔力を体に纏わせていたおかげだ。


 でなければ、たぶん近づけなかったと思う。


 無詠唱魔法使えないと、俺ってホントに無能だよな。


 無詠唱を使えない豚はただの豚ってやつか?


 発火イグニッション使えるだけで、調子乗ってましたわ。


 すんません。


 ってなわけでさっそく短剣を抜いてしまおう。


 剣抜くなら、やっぱりあれいいたくなるよな。


 エクスカリバーって叫んでもいいですか?


 勇者が聖剣を抜くノリやってみたい。


 だって俺、主人公だし。


 俺はミーアの腹に刺さっている短剣に手をのばす。


 そしてぐっと短剣の柄を掴んだ。


「エクス――」


「なんで……ですか?」


 ミーアが呆然と俺を見ながら言ってきた。


 ちょっとまって。


 俺、いまからかっこよく短剣抜こうとしてたんだけど。


 エクスまで言っちゃったじゃん。


 まあここは何事もなかったように会話を合わせるか。


「なにが?」


「なんで私のためにここまでするんですか」


 いや、そんなの決まってるじゃん。


「ミーアがいなくなったら、俺一人でランチ食べることになるし」


 ひとり飯はマジで辛いからな?


 こそこそと隠れて食べる飯がどんだけきついことか知ってる?


 校庭の裏とか言っても、カップルのイチャイチャを見せつけらるし。


 俺のライフがゴリゴリ削られていくからな。


「理由になってません」


「俺にはとっても大事な理由だよ」


 ミーアがいないと、俺がボッチになる。


 そうなると、見かけたカップルを片っ端から燃やしていく自信がある。


 無詠唱魔法だから証拠は残らない。


 これ完全犯罪できるんじゃね?


 まあそんなことしないけど。


「んじゃ、抜くからな。痛いかもしれんけど我慢してね?」


 ナイフって抜くときの痛いらしいからな。


 おっしゃ、いくぜ!


 エクスカリバアアアァァァァァァ!


 って、これ抜けねーぞ!!!


 まさか俺、勇者じゃなかった?


 主人公なのに!


 てか、これスポッと抜けてハッピーエンドじゃないの?


 頼むからハッピーに終わらせてよ!


「私は魔族の子ですよ? 他の人と食べたらいいじゃないですか」


 ミーアが話しかけてくる。


 てか、ミーアさん。


 腹に短剣が刺さってる状態で、なんで君そんなに平気そうなの?


 痛くないの?


 これどうなってんの?


 やっぱり魔族だから?


「他の人なんていない」


「いつも一緒にいる金髪の子は?」


「クラリスはダメだ。俺はミーアと一緒がいいんだ」


 こんな俺と一緒にご飯食べてくれるなんてミーアだけだよ。


 それに魔法の訓練もミーアがいないとダメだし。


 助ける理由なんて十分すぎるほどある。


 よし、もっかい頑張るか。


 もう少しだけ魔力量を増やして……ってあれ?


 力が入らない……。


 あっ、マジでこれ死ぬわ。


「……ッ」


「アランくん!?」


 猛烈にしんどいすわ。


 なんか俺の中で重要な何かがゴリゴリ削られてる気がする。


「もう大切な人を失うのは嫌です」


 ミーアがなにか言ってるようだけど、全然耳に入らない。


 やべぇ、意識が遠ざかってくる。


 これで倒れたらやばいよな?


 マジで死んじゃうよな?


 え、俺主人公なのに死ぬの?


「アランくん」


 顔を上げる。


 ミーアが泣きそうな顔をしていた。


「ミーア……」


 ミーアの顔が近い。


 めちゃくちゃ近い。


 てか近すぎじゃね?


 鼻と鼻がぶつかる距離にミーアの顔があるんですけど。


 そんな近くで俺の顔見ても、イイことないよ?


 心なしか、ミーアの顔が上気しているようにみえる。


「ごめんなさい。アランくん。私は――」


 直後、ミーアの唇が俺の額に触れた。


 え?


 もしかしてここギャルゲーの世界だった?

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