第2話 アラン・フォード

「ここはどこだ? 何が起こったんだ?」


 状況がわからない。


「え? マジで何が起きたの?」


 突然の視界が真っ黒に染まり、次の瞬間世界が変わっていた。


 ちょっと……いや、かなり意味がわからない。


 未知の体験だ。


 ふと、近くに置いてあった鏡が目に入った。


 鏡には子供が写っている。


「誰だ?」


 コテンと首をかしげる。


 鏡に映る子供も俺の真似をしてきた。


「もしかして俺、子供になっている?」


 いやいやいやいや、そんなことって現実にあるのか?


「冷静になれ、俺。こういうときこそ落ち着くんだ」


 たっぷり30分くらい使って頭を働かせた。


 そして、とんでもないことを俺は理解してしまった。


 俺はアラン・フォードに生まれ変わったのだ。


 そもそも、アラン・フォードって誰だって話だ。


「そうだ……。さっきやってたゲームのキャラだ。ってことは俺はゲームキャラになったってわけ?」


 こんなことってあり得るのか?


 いや、でもどうみても俺はアランだ。


 アランはローランド伯爵の三男。


 現在、15歳。


 国内の名門学園の学生だ。


 学園入学からまだ3ヶ月ほどしか経っていない。


「なるほどね」


 ぜんぜん意味がわからんかった。


 アランとしての記憶はしっかり残っている。


 と言ってもここ数年の記憶しかないが。


 それでもアランがどういう人物か把握できる。


 アランは今日、魔法の授業で見栄を張ろうとし、むりやり魔法を発動させようとして失敗した。


 その反動で気を失い、医務室に運ばれてわけだ。


 さらに、アランの身体に俺が入り込んだということだ。


「なるほどね。転生っていうよりも憑依って言ったほうがしっくりくるな。いや、どっちでも変わらんか」


 アランの記憶から、アランがどういうやつだったのか、すぐに把握できた。


 アランは間抜けで馬鹿なやつだ。


 とんでもないダメ人間。


 見栄っ張りで傲慢で臆病で自分勝手。


 コミュニケーション能力が皆無で常にマウントを取ろうとする。


 出来損ないの落ちこぼれ。


 基本的に全ての能力値が低い。


 勉強もできないし、剣や魔法もからっきしダメ。


 外見も非常に残念。


 なぜならデブだから。


 痩せれば多少マシになるかもしれないが……。


 当然、アランに友達はいない。


 こんなやつに友達ができるわけがない。


 悲しいボッチだ。


「まじか……。やばい奴になってしまった」

 

 はああぁぁぁと盛大に溜息をついた。


 アランの良いところを見つける方が難しい。


 強いてあげるとしたら家柄だ。


 といっても伯爵家の四男だから大したことはない。


 いや、平民と比べれば十分凄いだけどね。


 それに伯爵家ってマジで凄い家柄だから。


 でも、あんまりパッとしないんだよな。


「どうせ転生するならイケメン王子が良かった」


 王太子はじゃなくて王子な。


 国を動かす才能が俺にあるとは思えない。


 平和な国で悠々と暮らせる第三王子くらいに転生したかった。


 いや、王子は王子で大変そうだな。


「まあ、あんまり考えても仕方ないか。とりあえずアランとして無難に生きていこう」


◇ ◇ ◇


 やったぜ!


 お見舞いが一人も来なかったぜ!


 こんな俺を見舞いに来てくれる奴がいるはずがないってことか?


 ボッチバンザイ!


 ボッチに栄光あれ…!

 

「やめよ。悲しくなってくるだけだ」


 俺は医務室を出て、学園の玄関に向かってあるき始める。


 ちょっと歩いただけで、すぐに体が悲鳴をあげた。


「ひぃ、じんどい……。ぐるじぃ……」


 体重100キロ以上あると思う。


 お腹を触ると、ぶよんぶよんとお肉が掴める。


 わーい、お肉がいっぱいだー。


 お肉食べ放題かな?


 嬉しいなー。


 焼き肉パーティーだー!


 ……現実逃避はやめよう。


「俺はデブだ。その現実をまずは受け止めよう」


 全てはこのお肉から始まる。


 ゼロから始まるお肉生活!


 ちょっと有名なラノベをもじってみた。


 腹に溜まったお肉を両手で持ち上げる。


 大量のお肉だ。


 このお肉、スーパーで売れないかな?


 グラム100円で売ってあげるよ。


 アラン特製人肉!


 絶対買う人いないよな。


 なんてことを思いながら歩いていると、学園の庭が見えてきた。


 ちなみに今日の授業はもうない。


 このまま帰宅する流れだ。


 庭では和気あいあいと生徒たちが談笑している。


 俺が通りかかると、同じクラスの男が蔑んだ目で俺を見てきた。


 おい、そんな目で見るなよ。


 普通に傷つくわ。


 俺は繊細なガラスハートのシャイボーイなんだぜ?


 見た目はデブだけど……。


 ドシンドシンと逃げるようにその場を去った。


 玄関で靴を履き替えて、校舎を出る。


 ちなみにこの学園は全寮制だ。


 寮に向かっている。


 はやく寮に帰りたい。


 お家でゆっくりしたいよ~。


「ぜぇぜぇ……もう無理。ちょっと休ませて」


 近くにあるベンチに座ってひと休憩。


「もうこんなデブ嫌だ」


 泣きたくなってきた。


 俺をアランに転生させたに神とやらを訴えてやる。


 慰謝料を請求してやる!


 ホント、なんでアランに転生させるんだよ。


 泣いちゃうぞ。


 まじで泣くからな?


 まあ嘆いても仕方ないか。


 仕方ないけどなぁ……。


「イケメンに生まれたい人生だった」


 前世でもイケメンじゃなかった。


 イケメンだったら人生イージーモードだろうな。


 ハリウッド並のイケメンじゃなくても良いから、クラスで三番目か四番目くらいのイケメンに生まれたかった。


「はぁ……ないものねだりなのはわかってる」


 アランに転生したんだから、アランとして生きていくしかない。


 諦めて現状を受け入れるしかなさそうだ。


「これからは謙虚に生きていこう」


 せめて今までのアランにようなわがままをやるのだけはやめよう。


 俺はそう決意して、ベンチから立ち上がった。

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