第3話 授業
お腹にドンッ。
存在を主張する肉塊。
ギルティだ。
まずはデブから脱却しよう。
こんな見た目では、周りからの視線が気になってしょうがない。
というか、俺が気になる。
ダイエットで大切なことは食事と運動。
特に前者。
むりやり食事を制限をすれば良いわけじゃない。
何を食べるかが大事だ。
食べるものを変えるだけでダイエットに成功するはず!
さて、デブの問題はゆっくりと解決することにして……。
俺にはまだ問題が残っている。
ボッチ問題だ。
学園生活を送る上で、ボッチだと大きな障害となるわけだ。
「一人は嫌だ。お友達が欲しい」
遠巻きにされているのはわかっている。
これから3年間ずっと一人でいるのは嫌だ。
耐えられない。
ボッチを極めたいと思うほど、強靭な心臓を持ち合わせていない。
むしろガラスのメンタルだと思っている。
「でも、いまさら友達なんてできるのか?」
アランは高校デビューに失敗してしまった状態だ。
いや、高校ではないんだけど、まあ似たようなものだろう。
入学式の日に行った自己紹介がフラッシュバックする。
「愚民ども! 家畜ども! 無能ども! 俺様、アラン・フォード様がこのクラスの支配者だ! ハッハッハッハッ!」
そんな醜態を晒してしまった。
「思い出すだけで恥ずかしい。消えたい。消したい。穴があったら入りたい」
学校に行きたくなくなってきた。
というかアランよ……。
よく今まで平気な顔して学校に行けたよな?
もはや尊敬の域だわ。
一般ピープルな俺からすると、アランが人間ではない何かに思えてならない。
はあ……億劫だ。
◇ ◇ ◇
翌日。
教室に入ると視線を感じた。
今までの
「ハハハッ! アラン様が来てやったぞ! 喜べ、愚民ども!」
と高笑いして教室に入っていた。
でも、さすがに今の俺にそんな勇気はない。
そんなこと言ったら、恥ずかしくて死ねる自信がある。
アラン……お前、まじで強心臓だな。
やっぱり尊敬するわ。
こそこそと教室に入ったはずなのに、もの凄く目立った。
静かにしてても目立つなんて最悪だ。
誰か助けてくれ。
でも、ボッチの俺を助けてくれる友達はいないようだ。
もっとギリギリの時間にくるべきだったな。
これだから学校に行きたくなかったんだよ!
みんなの視線が全身に突き刺さる。
俺はボッチの最終奥義を使うことにした。
必殺、ネタ・フーリ!
休憩時間、手持ち無沙汰になったボッチが行う技だ。
『寝てるだけだかな。ボッチとかじゃないからな。昨日ゲームしすぎて眠すぎるだけだから』
そんな空気を醸し出すことで、友達がいない寂しいやつというレッテルを貼られないようにできる。
だが、実はこの奥義には大きな弱点がある。
傍から見ればボッチがボッチらしい行動をしているようにしか見えないのだ。
結局可哀想なやつとして見られるのだが……。
でも、まあ仕方ない。
俺はぼっちだ。
それは認めよう。
まずは認めることが大事だからな。
俺はネタ・フーリを使って、朝の時間を耐えきった。
◇ ◇ ◇
困った。
非常に困ったことがある。
何が困ったかと言うと……。
「授業がさっぱりわからん……」
先生の話していることが全くわからなかった。
俺は馬鹿なのか?
ああ、そうだった。
アランは馬鹿だった。
『勉強なんてものは必要ない! 俺様はアラン・フォード様だからな! フハハハッ!』
なんてことを言うのがアランだ。
前世の知識は何の役にも立たない。
唯一算数だけは役に立った。
わーい……。
まったく喜べねぇ。
前世知識を使った転生知識無双ができない。
地道に勉強していくしかないようだ。
ちなみに、毎度毎度先生たちが驚いた顔で俺を見てくる。
信じられない、とばかりに凝視してくるのだ。
俺を見て固まってしまう先生もいた。
周りの生徒達もひそひそしていた。
どうやら、俺が真面目に授業を受けているのが意外らしい。
俺が真面目に勉強ことが、そんなにおかしいのか?
いや、おかしいだろうな。
これまでのアランがとんでもないダメ人間だったのはわかっている。
だから、みんなが驚く理由もわかる。
わかるけど……。
どうか俺のことは放置してくれ。
俺は普通に授業を受けたいんじゃ!
そうこうしているうちに授業が終わった。
大変な一日だった。
俺は逃げるように教室を去る。
「いやぁ、マジできつかった。しんどかった。泣きたくなった」
教室にいる間は息が詰まる思いだった。
「さて、今からは何をしようか?」
やるべきことはたくさんある。
ダイエットは置いとくとして……。
まずやらなければならないことは勉強だ。
「今までアランは何を学んできたんだよ……。いや、わかってる。何も学んで来なかったんだよな」
もう挫けそう。
アランがダメダメで泣きそうになる。
太っていて、友達がいなくて、嫌われていて、勉強が全くできない。
これが自分の現状だと思うと、悲しくて仕方ない。
「いやいや、ここはポジティブに考えていこう。今が最底辺だ。もうこれ以上下がることはない。つまり、伸びしろしかないんだ!」
今日の授業で、自分がいかに無知であるかを知った。
無知の知というやつだ。
つまり、俺は知らないことを知ったことで前進したわけだ。
これぞポジティブシンキング!
ということで、図書館に向かうことにした。
図書館は想像以上に広かった。
本もたくさん置いてあるようで、かなりありがたい。
放課後は当分、ここで勉強だな。
「ところで俺は何から手を付ければいいんだ?」
何がわからないのかがわからない。
かなりの重症だ。
頭を抱えたくなった。
「伸びしろですね!」
なんて某選手のマネごとをしている場合じゃない。
「仕方ない。まずは今日の授業でわからなかったところからやっていこう」
メモはしっかりと取っている。
ちなみに、この世界の紙は安価だ。
日本と比べると多少高いが、それでも中世ヨーロッパのように紙がバカ高いということはない。
メモ用紙を見ながら、うんうんと唸る。
授業で習った内容の復習を始めた。
図書館にいるため、わからないところは本を使って学ぶことができる。
途中から授業の復習よりも読書自体が面白くなってきた。
魔法史とか偉人伝とか、図書館には面白い本がたくさんあった。
そっちを読んでいると、つい勉強をほったらかしにしてしまう。
テスト期間中に漫画を読んでしまうような、あの現象だ。
しばらく時間が経ち、いつのの間にか外が暗くなっていた。
「うわっ、全然勉強できんかった。けどまあ仕方ない。図書館に面白い本が置いてあるのが悪いんだ。うん、俺は悪くない」
とりあえず、図書館のせいにしておく。
今日はここまでにして帰るとしよう。
「ん?」
机の上にある本を見て、ふと違和感を覚えた。
「俺って、こんなに本を読んだのか?」
図書館にいた時間は二時間弱。
その短い時間で、俺は五冊も読み終えていた。
集中して気づかなかったが、驚異的なスピードで本を読んでいたことになる。
まさに速読だ。
それに、ただ読むスピードが早いだけではない。
しっかりと内容が頭に入っている。
「もしかしてアランって頭が良いのか?」
そうだとするなら、嬉しい誤算だ。
少しだけ未来が明るくなったような気がした。
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