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 しばらくの時が過ぎた。あれからもエミルは通常通り学校に通っていて、『氷の刃』としての仕事も続いている。

 始めは避けようと思っていた、ミニバスケをしている河川敷にも、結局時折顔を出していた。絵を描く以外にも、ミニバスに参加することもある。

 先日、『Sleeping Sheep』の前に請け負った仕事──『太陽の御手』を殺した時に得たは、弦月に渡しておいた。自分には不要なものだ。

 この時のエミルは、まだ自分の運命を知らなかった。いつも通り過ごし、今まで通り、自身の命には執着せず。

 出逢いが運命を変えることもあると、知っていた筈なのに、すっかり忘れてしまっていた。

 傷付けることに慣れた。傷付いたのに気付かないようにすることに、慣れた。幸せになることは罪だと思った。


 それでも、望まずにはいられなかった。

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氷は羊と踊る 水澤シン @ShinMizusawa

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