05

 仕事中毒者ワーカホリックは、今日も仕事で朝帰りだった。 少し遅い朝食をとる彼を見ながら、霧崎きりさき桜波おうはは淡々と口を開く。


「暗殺計画が出ているそうです」

「へぇ。誰の?」

「青水の」

「俺の? へぇ、ご苦労なこって」

「…………」


 食事の手を止めることなく桜波の言葉に返すこの青年こそが、東間青水その人。

 自分に対してあまりに無頓着なその返事に内心でイラッとしながら、それで、と桜波はまた青水に言葉を向けた。


「何が?」

「……どう対処なさるんですか?」


 思わず語気を強める桜波にも、青水は相変わらず食事の手を止めない。


「別に? ほっとけば?」

「青水!」


 何とも思っていないかのような青水の態度に、桜波は立ち上がりドンと音を立ててテーブルを叩いた。そんな様子に、ようやく青水が箸を止めて桜波を見上げる。


「……どっからの情報だ?」


 ため息混じりの質問は、諦めにも見える。 それでも関心を持っただけマシかと桜波は椅子に座り直した。


「依頼をされたという殺し屋が忠告してきました。多くの殺し屋が青水を狙うだろうと」

「殺し屋が? 狙う側が、わざわざそんなリスクを負うか?」

「私に聞かれても」


 また食事を始めながら話を続ける青水を見るや、もう諦めたとばかり息をついて桜波は言う。


「とにかく、この話はふうには知られないよう配慮して、貴方自身もちゃんと身の回りに気を配って下さい。今風が知ったらまた取り乱すのは目に見えてますし、そうでなくても危険な行動に出かねない。まして貴方は今、力も使えなければ体力も戻っていない。ただの一般人も同然なんですから。

 ……って、聞いてます?」

「聞いてる聞いてる」

「はしたないですよ」


 箸を顔の横でプラプラと振りながら、面倒そうに青水がそう返し。ああ、もうこの馬鹿は何を言っても直りそうもないな、なんて思う。

 だがふと、青水の表情に真剣味が宿ったのに気付いた。


「……随分奇特な殺し屋だな。新参者か?」

「分かりません。ひわや弦月げんげつさんから聞いた情報からは誰なのかまで特定出来ませんでした。ただ、素人や新参者というわけではないと思いますよ」

「何故だ?」

「気配を完全にコントロールしていました。その上、殺気は無かったにせよ、若輩者に出せる空気ではありませんでしたし、ある程度の敵意くらいはどうってことも無い様子でした。あの様子なら、それなりに修羅場はくぐってきている筈です。それに……かなりの力を秘めていますね、彼女は」


 食事を終えて片付けをしようと食器を持って立ち上がった青水は、一瞬動きを止めた。


「“彼女”? 女だったのか?」

「私と変わらないくらいの少女でしたよ」

「ふぅん」


 聞くなり、素っ気ない返事だけ残して青水は片付けに向かう。その背を、桜波はもう止めなかった。

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