第22話『通信障害』

「機械化装甲射撃偵察帰宅部の佐藤さん、生徒会長がお呼びです…」

校内アナウンスのスピーカーが呼び出しを告げた。

「誰かまたやらかしたか?」

「部長じゃないの?」

「最近妙にお呼びがかかるよな」

部室でカードゲームをしていた部員の面々は顔を見合わせた。


──生徒会室

「我が校の使用している広域無線基地局が2時間前からダウンしている。

君たちには通信インフラ部の護衛をお願いしたい」

生徒会長が言った。

「そりゃいいですがね、別に生徒会お抱えの連中が居るでしょう」

「…嫌なら断っても良いのだが…」

「はぁ、報酬は悪くないからいいですがね、放送で呼び出しくらうとどうも…」

部長は頭をかいた。

「わかった。次からは別の方法を使おう」

「はぁ…」

呼ばないという選択肢はないのか、と部長は思ったのだった。


──部室

「というわけで、通信インフラ部の連中の護衛が今回の仕事だ」

「相手は?」

「さっぱりわからん。現地で必要ならヘリでもなんでも飛ばしてくれるそうだ」

「至れり尽くせりだね」

「それだけ危険な可能性があると?」

「会長はそう思ってるみたいだが、ただの故障かもしれんしなぁ」

部長は顎をさすって言った。


部室前のグラウンドで通信インフラ部を乗せたトラックと合流すると、

BMPを先頭に通信基地へと向かって出発した。

──結局、道中何事もなく、BMPとトラックは通信基地にたどり着いた。


「PP、まだエンジンは切らずに待機してろ。

新入りとストレロクは梯子で上に登って周囲を警戒してくれ」

「了解」「了解」

ふたりとも、さっさと梯子に向かっていった。

それを見届けた部長が通信基地の扉を開けると、埃っぽい空気がかき回されて顔に触れた。

「…」

部長は顔をしかめて、取り出したハンカチを口元に当てた。

チラッと床に目をやる。

「足跡は無いな。入ってきていいぞ!」

部長が通信インフラ部を呼んだ。

「たまには掃除したほうが良いんじゃない?」

メガネが言った。

「こんなところが何個あると思ってるの。だいたい壊れた時しか来ないんだから」

通信インフラ部の生徒が言う。

「いいかげんだぁ」


さして広くもない小さな通信基地の中を進み、中枢に到着した。

通信インフラ部の生徒たちが手早く装置を調べる。

「たぶん、ただの故障ですよ」

「破壊工作の可能性は無いと?」

「ほぼありませんね、それなら爆弾で吹き飛ばすなりなんなり、

もっと派手に壊しますよ」

「じゃあ修理はすぐ出来るか?」

「故障箇所を探したり、他の部分も点検したいので、半日はかかります」

「へぇ」

部長は気の抜けた声で返事をした。


「部長だ、いまのところ破壊工作の可能性無し。警備は続行、半日仕事だそうだ」

「うぇ~、こんななにもないところで半日も~?」

メガネが言った。

「駄弁ってりゃ終わるよ」

屋上のストレロクが言った。

「もうエンジン切って良い?」

BMPに乗ったままのPPからも無線が入る。

「あぁ、止めて休んでてくれ。

新入り、ストレロク、降りてきて休むか?」

「いや、一応上で見張っておく、後で交代してくれ」

「了解、新入りもそれでいいか?」

「大丈夫」

「あいよ」

「二人とも仕事熱心だねぇ」

すでに床に座り込んで休憩しているメガネが言った。


──数時間後 通信基地 屋上

「ん、鹿か?」

「鹿?」

反対側を警戒している新入りが振り向いた。

「右の、あの辺りだ」

ストレロクが指をさす。

新入りが双眼鏡を覗いた。

「はじめて見た」

「撃ってみるか新入り?」

「撃っちゃうの?」

「でかいから食いでが有るぞ」

そう言った後、ストレロクはインカムに呼びかけた。

「ストレロクだ。部長、鹿を見つけたんだが、撃ってみてもいいか?」

「鹿を?待ってろ」

部長が答えた。


「新入り、SVUで狙っとけ」

ストレロクが言った。

「わかった」


「インフラ部へ、今から銃声がするが、気にしないでくれ。鹿狩りだ」

無線に向かって部長が報告した。

「鹿狩り?」

「暇なんだよ、こっちは」

「了解…」

呆れたような声が無線から返ってきた。


「ストレロク、撃っていいぞ」

「OK。新入り、撃て」

「了解」

新入りは返事とほぼ同時になめらかな動きで引き金を引いた。


「相変わらず良い腕だ。ヘッドショットだよ」

双眼鏡で鹿を観察していたストレロクが言う。

「PP、メガネ、ストレロクと一緒に鹿を取りに行け」

「しょうがないなぁ」「はいはい~」

「ストレロク、メガネとPPを行かせるから降りてきて鹿を取ってこい」

「了解。新入り、見張りを頼む」

「わかった」


「重いからここで内臓を抜いて、あとは向こうで解体しよう」

ストレロクがナイフを抜きながら言った。

素早く腹にナイフを突き立てると一息に切り裂いた。

「うへー、すごい量…」

「重いから早く持ってストレロク!」

鹿の前後を抱えるメガネとPPがそれぞれ言った。



「クーラーボックスに入り切らない分は焼いて食っちまおう。

メガネ、BMPから調味料取ってきてくれ。私は薪を拾ってくるよ」

鹿を解体し終えたストレロクが言った。

「また兵員室が汚れた~!」

PPが鹿の解体場にされたBMPの兵員室を拭きながら言った。

「帰ってから洗えば良いじゃん…」

メガネは呆れた顔をしながら、兵員室の道具箱から調味料を取り出した。


「佐藤だ、鹿肉を焼いてるからお前らも食いに来ていいぞ」

部長は無線に呼びかけた。

「何をやってんだお前らは」

「嫌なら食わなくてもいいんだぞ」

「くれるなら貰うよ」

「そうだろ」


「鹿肉はよく火を通せよ」

火加減を調節しながらストレロクが言った。

「ストレロクは手慣れてるなぁ」

即席のかまどに鉄板を置いて、鹿肉が焼かれていく。

「これ持って帰ったら売れないかな?」

クーラーボックス満杯の鹿肉を横目にメガネが言った。

「食べ切れる量でもないし、そうした方が良いかもな」

ストレロクが答える。

「新入り、交代するからお前も鹿食っていいぞ」

部長が新入りに呼びかけた。

「わかった」


「お肉になっちゃった」

新入りは結局、スコープ越しの小さな存在と、食べやすいサイズに切り取られた姿でだけ、鹿を認識したのだった。

「美味しい」


鹿肉パーティを挟んだために作業は遅れたが、日の暮れる前には総点検も終わった。

帰り道、BMPに乗った部長が呟いた。

「あたしら結局駄弁って鹿食ってただけだな」

「それでお金もらえるし、良いんじゃない?」

メガネが答えた。

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