第2話

鳩時計が時間を知らせる。八回鳴ったその音に、早苗は目を覚ました。お絵かき途中の画用紙はしわくちゃで、モデルの店主も眠っていた。

 

窓の外は真っ暗だ。早苗はびっくりして店主を起こした。


「どうしよう、外真っ暗」

 

「これは大変だ。すぐに帰らなきゃ」


泣き出しそうな早苗の手を握り、店主は店の外へ出た。

 

夜の風は生暖かくて、どこか遠くで梟が鳴く。暗い空には蝙蝠が飛んでいて、どこか不気味だった。


「大丈夫だよ。おじいちゃんが一緒だから」


店主に引かれて早苗は歩き出す。不気味に感じた夜道だが、店主と繋いだ手が温かくて、安心できた。

その安心感から、早苗は不安をこぼし始める。


「私、引っ越しするの。パパが遠くに転勤するから、ママと私、それについて行くんだ」


早苗は店主の手をぎゅっと握る。


「友達できなかったらどうしよう」


店主は強く握り返し、早苗に笑いかけた。


「早苗ちゃんは大丈夫。だって、おじいちゃんと友達になれただろう。友達を作るのは、本当は簡単なんだよ」


段々と早苗の家に近付いてくる。家の前では、両親が早苗の名前を大声で呼んでいた。


「パパ、ママ、ただいま!」


早苗が声を出すと、両親は走ってきて早苗を抱き締めた。

 

店主は安心して早苗から手を離す。そして、何も言わずに帰り始めた。

 

早苗は店主を振り返る。そして、店主の後ろ姿に向かって叫んだ。


「いつかお人形買いに行くから!待ってて!」


店主は振り返ると、笑顔で手を振った。

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