『ウンディーネさんと精霊術師さんの心情』
エイシア様がイールフォリオに帰ってくる……。
ふつうに考えれば、それは喜ぶべきことだと思います。
例えフウカさんがエイシア様と暮らしたとしても、いつでも会える距離にいるのですから。
このままエイシア様がお弟子さんになったら、その機会も増えることでしょう。
でも……わたしは素直に喜べずにいました。
正直に言えば、嫌な予感しかしません。
それだけエイシア様が町の皆さんに与えた影響が大きかったからです。
わたしが数日留守にしただけで不安になってしまうほどに。
そこでエイシア様の真意を確かめようと思ったのですが……。
「あの~、エイシア様……」
「お師匠様! 『様』は、やめてくださいっ!!」
と一蹴。
本題の
『様』がダメなら、『さん』付けで。
まあ、無難なところではないでしょうか。
その代わりと言ってはなんですが、わたしからもひとつお願いすることに……。
「話し方を戻せと言うのですか?!」
「急に口調とか変わると調子が狂うんですよ」
「し、しかし……お師匠様に対して、失礼でだと思うのですが……」
そんなことを言ったら、偉大なる
言い出したらキリがないので、敢えて口には出しません。
とにかく、ここは毅然とした態度で臨みます。
「このお願いを聞いてもらえないなら、お師匠様にはなりません! それでもいいですか?」
ティーニヤさんや、お兄さんにもそうしてもらってますからね。
エイシアさんだけ特別と言うワケにはいきません。
この一言が効いたのでしょうか……。
「わ、わかりま……わかったよ」
エイシアさんは渋々受け入れてくれたのです。
これでようやく本題に入れますね。
では、早速……。
「あの~、エイシアさんはイールフォリオに帰ると言ってましたけど……大丈夫なんですか? 町の皆さんと、顔を合わせづらいと思うのですが……」
そう訊ねたところ、エイシアさんは大きく目を見開きました。
ですが、それは一瞬のことで。
すぐに悲しげな表情へと変わったのです。
「そっか……お師匠様は知ってるんだ。私が皆に嘘を吐いたこと……」
「エリサさんからも聞いてますし。お手紙にも書いてありましたから……それがわかっていて、何故イールフォリオに帰ると言ったのですか? 町の皆さんが受け入れてくれるとは限らないんですよ??」
「わかってる。だから……凄く怖いよ。出来る事なら逃げ出したい。だけどね……」
そこまで話して、エイシアさんは腕に抱いているフウカさんに視線を落とします。
「この子を……お師匠様と引き離したら、いけないと思った。君だって本当は、主と一緒にいたいよね?」
エイシアさんの言葉に、フウカさんは小さく頷きました。
「ごめんね、辛い選択をさせて……」
「ソ、ソンナ事ナイデス。デモ……エリミア様ハ、ソレデ良イノデス?」
「良いよ。これが誰も悲しませない、一番の方法だから……」
誰も悲しませない?
本当にそうなのでしょうか??
わたしは、この方法が一番だとは思えませんでした。
現にエイシアさんは辛そうにしているからです。
だからと言って、他に良い方法があるかと問われると……。
正直なにもありません。
ここはひとりで考えるより、誰かに助言を求めたほうが良いように思えます。
幸いにも、わたしの頭には、そのとっておきの人物が頭に浮かんでました。
でも今ここで、その人物のことは明かせません。
エイシアさんが躊躇してしまうかもしれないので。
夜も近づいてますし、速やかに行動に移すとしましょう。
善は急げと言いますからね!
そこでわたしは、エイシアさんに声を掛けます。
「エイシアさん。その覚悟があるのなら、今からイールフォリオに帰りますよ」
「今から? この時間だと、ポルトヴィーン行きの船は出てないと思うけど……」
「大丈夫です。わたしにはコレがありますから」
わたしは左腕に嵌めている、金色に輝く腕輪を見せました。
それに驚く、エイシアさん。
「て、転移の腕輪?! なんで……そんな超レアアイテムを持ってるの??」
「説明はあとです。とにかく、急ぎますよ!」
シュヴァルツさんにフェンリルさんの姿になってもらい、超特急で神殿に向かったのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「
光の柱が消え、エイシアさんは呆然と立ち尽くします。
「女神様と同じだ……外に出て確認しても良い?」
「いいですけど……その前にフードを深くかぶってくださいね。今、町の皆さんに見つかるのは良くないので」
「うん、わかった。それで……これから何処に行くの?」
「ティーニヤさんのお屋敷です」
わたしが頭に思い浮かべていた人物。
それはティーニヤさんのことです。
そして、案の定と言うべきでしょうか。
エイシアさんの顔色が悪くなりました。
「あの~、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないよっ! なんで、ティーニヤ様の所に行くの?! 私が一番会い辛い
やっぱり、そうですよね。
だからイールフォリオに戻るまで、ティーニヤさんのお名前を告げずにいたのです。
「そんなこと言わないで、とりあえずティーニヤさんに会ってみませんか? ティーニヤさんに相談すれば、本当の意味で誰も悲しませない方法が見つかるかもしれませんよ??」
「いやいや、私と会った時点でティーニヤ様が悲しむよね? 私が嘘を吐いてた事がバレるんだから……」
「そのことなら問題ないですよ。エイシアさんが嘘を吐いていたことは、ティーニヤさんもしってますし」
「へっ? な、なんで?!」
「エリサさん宛てに届いた、エイシアさんのお手紙ですが……わたしと一緒にティーニヤさんも読んでいたので」
「お姉ちゃん……なんて事をしてくれたの……」
エイシアさんは膝から崩れ落ちました。
「落ち込むのはあとにして、ティーニヤさんのお屋敷に行きますよ!」
「ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……」
いいえ、待てません。
あまり遅くなると、ティーニヤさんに失礼です。
なので……。
「シュヴァルツさん、例のアレ。お願いします」
例のアレ。
それはグリエムさんを拘束した、シュヴァルツさんの尻尾のぐるぐる巻きです。
「や、やめてーっ!!」
と騒ぐも、抵抗虚しく一瞬で身動きが取れなくなる、エイシアさん。
はあ、何度見ても羨ましいですね。
次こそは、わたしも……と思いつつ、ティーニヤさんにお屋敷に向かうのでした。
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