『ウンディーネさんと精霊さんの加護』
わたしは今、ドーラさんのお家に来ています。
目的はドーラさんのお母様である、リジェンさんの治療。
六畳くらいあるお部屋に通されると、ベッドの上にとても綺麗なエルフさんが寝ていました。
金色の長い髪に、透き通るような白い肌。
あのかたがリジェンさんですか……。
ドーラさんは母親だと言ってましたが、どう見ても二十代です。
母娘と言うよりは姉妹にしか見えません。
流石はエルフさん、年齢が全く読めないですね。
そんなリジェンさんを見ていて、ひとつ気になることがありました。
「あれ? 傷口が見当たらないのですが……」
「かなり深い爪痕が残ったから、
ドーラさんはそう言いながら、リジェンさんの右腕を指差します。
このあたりを引っ掛かれたと言うことですか。
「なるほど、綺麗に治ってますね」
「町で一番優秀な
「それは神官さんのお仕事ですから」
「そうね……フレイムドラゴンを追っ払ったあとだけど、魔力の方は大丈夫なの?」
「問題ないですよ。では始めますね」
ドーラさんは半信半疑のようですが、感覚的に魔力はまだまだ残ってます。
デュアル・シールド程度の魔法なら1割も減りませんから。
まあ、ステータスウインドウでもあれば、信じてもらえるかもしれませんけどね。
そんな便利な機能は、こちらの世界に存在しません。
なら信じてもらえるように、きちんと治療するだけです。
わたしはリジェンさんに向かって、両手を伸ばしました。
「
魔法名を告げると同時に、両方の手のひらから白い光が放たれます。
その光はリジェンさんを包み込むように広がりました。
普段から目にする見慣れた光景。
神官さんの魔法もちゃんと使えるようです。
ホッと一息つく頃には、白い光は粒子となって消えていました。
「すごい。これが、
驚きながらも、ドーラさんは感謝の言葉を述べます。
そして、赤い瞳は少し潤んでいるように見えました。
ここまで気丈に振舞ってましたけど、不安だったんですね。
それからほどなくして、リジェンさんは目を覚まします。
「ディーネさん、この度は本当にお世話になりました。なんとお礼を言ったらいいか……」
「いえいえ、お気になさらずに。わたしは神官さんとしての、お仕事をしただけですから」
「失礼ですが、本当に人族なのですよね?」
「ええ、まあ。そんなに珍しいですか?」
「はい。従来神官になれるのは、徳を積んだハイエルフだけだと言われてますから……」
徳を積むって、良い行いをすることでしたっけ?
全く身に覚えがありません。
わたしが神官さんになれたのは、ゲームシステムのお陰だと思います。
いやはや、ディーシャ様様です。
「……無益な殺生を繰り返し、動物の肉を食する人族には、絶対になれないジョブだと言われています」
おっと、すいません。
余計なことを考えていたので、後半のお話は全く聞いていませんでした。
「そ、そうなんですね……」
お話を合わせるように、適当に言葉を返します。
するとその横で、ドーラさんが突然得意げな表情を浮かべたのです。
「それだけじゃないのよ。ディーネはね、水精霊の加護も持っているの!」
「ドーラさんっ?! それは聞かなかったことにしてくださいと、お願いしましたよねっ!!」
「そうだったかしら? でも、あんな水魔法を見せられたら、バレるのも時間の問題だと思うわよ??」
悪気もなさそうに、ドーラさんは『加護』のことを口にします。
そんなドーラさんに向かって、リジェンさんは首を傾げました。
「ドーラ? 水魔法を使うようなことが起きたの??」
「ほら、毎年性懲りもなく来るアイツ……フレイムドラゴンが襲ってきたのよ」
「フレイムドラゴンが……それで町はどうなったの? 中心街は無事なの??」
「中心街どころか、今年の被害はゼロよ。ディーネが空に、どでかい水の壁を作ったもんだから、炎を吐くのがバカらしくなったみたいね。いつもより早く山に帰って行ったわ」
「そう……ディーネさんは凄腕の
エリミア様?
はて、どこかでそのお名前を見たような……。
ちょっと思い出せそうにないので、あとにしておきます。
そんなことよりも、リジェンさんは本職の
それに比べたら、わたしなんて副業みたいなものです。
恐らく今のは社交辞令ですから、失礼のないように首を横に振りました。
「いえいえ、わたしなんてまだまだですよ。お水の魔法が使えるのは精霊さんの『加護』のお陰ですから」
無難に答えたつもりでしたが、リジェンさんは苦笑いを浮かべます。
そしてドーラさんは呆れたような態度を取りました。
「ディーネはそう言うけど、普通は加護なんて持ってないのよ?」
「え? ではどうやって魔法を使っているんですか??」
「一般的には精霊と契約することで、魔法が使えるようになるのよ。精霊には低位の者もいるから、能力に差が出る場合もあるわ。でも加護は神族や高位の精霊からしか授かることができないの。それも契約とは違って強力な魔法を一生使い続けることができるわ。ディーネは、どこで水精霊の加護を授かったの?」
お水の精霊さんの『加護』を授かった場所ですか?
どこでしたっけ??
まだ
それでも断片的に記憶を辿ります。
「確か……『病気が治る水』と言うものを汲みに、王都の外れにある泉に行った時ですね。そこで怪我をしている女の子と出会って、魔法で治療したんですよ。そしたら、お礼にと『加護』を授けてもらったんです」
あの時は『病気が治る水』が近くにあるのに、怪我は治せないかと不思議に思ってましたっけ。
まあ、今でも謎ですが。
このお話をしたあと、ドーラさんとリジェンさんは、何故かとても驚いていました。
こちらも謎です。
「あの~、どうかしましたか?」
「ううん。その王都って、カスタリーニのことよね?」
「そうですよ。色んな種族の人が暮らしている、とても大きな町です」
ドーラさんに返事をすると、今度はリジェンさんが口を開きました。
「やっぱり……では、ディーネさんがお会いしたのは、ナイアス様のことですね」
「よくご存じですね。水色の髪をした、とっても可愛い女の子でした。ナイアスさんって、高位の精霊さんだったんですね」
ナイアスさんの姿を思い出し、わたしはニッコリ微笑みます。
ですがお二人は、わたしとは対照的に青ざめた表情を浮かべていました。
「高位なんてもんじゃないわ……」
「そうね。ナイアス様は神位の精霊に属しますから……」
「神位? ナイアスさんって、そんなに凄い精霊さんなんですか??」
「ええ、ナイアス様は水の女神様のご息女ですから」
ご息女?
つまり、お水の女神様のお嬢さんってことですか。
「へえ、そうなんですね」
「あまり驚いてないわね……」
「お母様は女神様かもしれませんが、ナイアスさんはナイアスさんですからね。わたしから見れば『可愛い女の子』、ただそれだけですよ」
「それだけって……やっぱりディーネは他の人族とは違うわね。でも、ナイアス様の加護があるなら名前を偽らなくても良いんじゃない? 神官のジョブがある分、本家より上よ??」
「ドーラ……ディーネさんは本当の名前ではないの?」
「本当の名前は、ウンディーネって言うのよ」
それも本当の名前じゃないですけどね。
と言いますか……。
「わたしのことは、ディーネと呼んでくださいと、お願いしましたよねっ!」
「そうだけど、別に隠す必要もないと思うのよね。あたしだったら『
なんですか、その恥ずかしすぎる呼び方は!
なので顔を赤くしながら、語気を強めて言葉を返します。
「絶対にしませーんっ!!」
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