『ウンディーネさんと初めてのお仕事 ④』
フレイムドラゴンさんは、イールフォリオの町に向かって真っ直ぐ飛んでいました。
このままでは、数分と掛からず町の上空に到達することでしょう。
現状を把握したドーラさんは、お家に行くのを止めて、ギルド会館に戻ります。
そして勢いよく、ギルド会館の扉を開けました。
「シリフィ、フレイムドラゴンが接近してきているわ! 遠距離攻撃ができる冒険者を大至急集めてっ!!」
「ドーラさん……フレイムドラゴンを相手にできる冒険者なんて、この町にはいませんよ?」
「だったら。水魔法を使える冒険者はいないの? この際だから低位の魔法使いでも構わないわ。火災時の対応にあたらせて」
「この町で水魔法を使えるのはリジェンさんだけです。それはドーラさんが一番よくわかっていることですよね?」
「そうだけど……このままじゃ町が……」
ドーラさんは悔しそうな表情を浮かべ、両手をギュッと握り締めました。
ギルド会館のホールに集まっていた冒険者さんたちは誰一人として、ドーラさんと視線を合わせようとしません。
中にはこっそりと外に出ていく冒険者さんもいます。
実はわたしも、そのひとり。
別に逃げ出すつもりはありませんよ?
この状況に思うところがあっただけですから。
「うーん、これって……どう考えても『都市防衛戦』のクエストですよねぇ」
わたしは両腕を組みながら、間近に迫るフレイムドラゴンさんを見据えます。
まさか
この『都市防衛戦』のクエストは、ゲーム開始当初から行われている大規模イベントのひとつです。
年に一度開催され、別名『フレイムドラゴンの襲来』などと呼ばれています。
内容は各都市に出現するフレイムドラゴンさんから、町を守り抜くと言うもの。
勝利条件はフレイムドラゴンさんに一定量のダメージを与える。
もしくは炎のブレスを吐き終えるまで耐える。
そのどちらか一方でも達成できればクリアとなります。
ただ、町の半分が『
なので参加しない冒険者さんもいたりするんですよね……。
それはさておき。
実は、この『都市防衛戦』こそが、初めてパーティを組んで臨んだクエストだったりします。
記念すべき第一回目のイベントは、攻撃重視の激しい打ち合いとなりました。
お互いに傷つけあう、お仲間さんたちとフレイムドラゴンさん。
それを見ていて、とても辛い気持ちになったのです。
当時は新人の
何もできない無力な自分に嫌気がさしました。
だからわたしは、たくさんの人を救える神官さんを目指したのです。
もちろん、そこにはモンスターさんも含まれています。
その後、わたしはたくさん経験を積み重ね、ユニークスキルも身につけました。
そして、ソロの神官さんとして臨んだ第二回目の『都市防衛戦』。
わたしは誰も傷つけずにクリアできる方法を見つけたのです。
それが……。
「デュアル・アクアシールド!」
右手をフレイムドラゴンさんに向けて、その言葉を口にします。
これは『
かっこよく言ってますが、円形状をした、ただのお水の塊です。
大きさは直径が100メートル、厚さは10メートルほどですね。
サイズは変更可能ですが、今回はこれくらいで大丈夫なはず。
この、お水の塊をフレイムドラゴンさんが炎のブレスを吐くのと同時に、町の上空に生成しました。
デュアルと名付けてますから、同じものが重なるような形で二つ存在しています。
多分、ひとつで足りると思うんですけどね。
二つ目の盾は、一応保険と言うことで……。
今までの経験上、これで問題ないと思います。
炎がぶつかると同時に白い煙が立ち上っていますが、水蒸気なのでご心配なく。
町に被害はありません。
あとはフレイムドラゴンさんが、ブレスを吐き終えるのを待つだけです。
この調子なら今回も誰も傷つけることなく、クエストをクリアできそうな気がします。
それよりなにより……。
こちらの世界に来て、初めて魔法を使ってみましたが、ゲームと同じくイメージ通りに発動してますね。
ホッとした気持ちで空を見上げていると、どこからか視線を感じました。
誰かと思ったら、ドーラさんとシリフィさんのようです。
お二人は、わたしを見つめながら、ぽかんと口を開けています。
なぜでしょう?
首を傾げていると、シリフィさんの口元がゆっくりと動きました。
「す、凄いですね……」
「そうね。これ……ディーネがやったの?」
「ええ、まあ。このまましばらく待っていれば、フレイムドラゴンさんも諦めて帰ってくれますよね?」
「多分ね。でも、一時間くらい攻撃する時もあるのよ? こんな水の大魔法、そんなに長く続かないでしょ??」
大魔法ってほどのことでもないんですけどね。
お水の塊を宙に浮かせているだけですから。
「それくらいなら問題ないですよ。この程度の魔法なら、数日は維持できますから」
まあ、起きていられればのお話ですが。
「す、数日っ?! どんだけ魔力があるのよ……って言うか、ジョブが神官なのに、なんで水魔法が使えるの??」
魔力の量だけなら、少しばかり自信があります。
レベルアップの時に得られるスキルポイントは、ほとんど魔力に振ってましたからね。
そうでもしないと、たくさん回復できません。
あと魔法については、すでにご存じの通り……。
「お水の精霊さんの加護があるからですよ。冒険者カードに『
そう言ってシリフィさんに視線を移します。
「え? 記載されてないですよ??」
な、なんですって?!
わたしはバッグから、冒険者カードを取り出し、内容を確認します。
すると……。
『※ユニークスキルは本人及び付与した者以外の閲覧は出来ません』
……とカードの隅に小さく書かれていたのです。
シリフィさんがユニークスキルを読み上げなかった理由が、わかりました。
閲覧できないと言うことは、黙っていたほうが良いのかもしれませんね。
わたしは冒険者カードから、ドーラさんとシリフィさんに視線を戻します。
「えーっと……今のお話は聞かなかったことにしてくださいね。魔法についても内緒にしていただけると助かります」
「は? 内緒とかムリでしょ」
「そうですね。皆さん、ウンディーネ様の魔法を見てましたから……」
皆さんって……一体誰のことですか?
そこでわたしは知るのです。
視線を送っていた本当の正体が、町のエルフさんたちだと言うことに……。
なるほど、ここにいるエルフさんたちは、NPCではないんですよね。
現実の世界を生きている町の住人さん。
それなのに、普段と同じ感覚で魔法を発動してしまいました。
あー、これは、やっちゃいましたね……。
でもまあ、ユニークスキルのことはドーラさんとシリフィさん以外にバレてないようなので、良しとしておきましょう。
苦笑していると、突如大歓声が巻き起りました。
「「「おおーーーっ!!」」」
どうやらフレイムドラゴンさんが攻撃を止めてくれたみたいですね。
諦めて南の空へと飛んで行く姿が見えました。
十分に遠ざかってから、わたしは魔法を解除します。
この様子なら、エルフさんも町も無事でしょうね。
もちろん、フレイムドラゴンさんも。
……と言うことは、これにてクエストクリアです!
この『都市防衛戦』が、わたしの初めてのお仕事になったのでした。
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