『ウンディーネさんと初めてのお仕事 ③』
「あの~、普通のフェンリスヴォルフさんと黒いフェンリスヴォルフさんとでは、なにがどう違うのですか?」
「基本的な攻撃は同じだと思うわ。ただ、黒いフェンリスヴォルフの爪には麻痺の効果があったのよ。恐らく牙にもね。黒いフェンリスヴォルフなんて、目撃情報が少ないから詳しいことはわからないけど……」
まあ、
簡単には出会えないと思います。
それよりもドーラさんのお話を聞いて、背筋が凍る思いがしました。
ソロで活動するプレイヤーさんにとって、麻痺は最も恐ろしい攻撃だからです。
麻痺の状態になると、なにもできなくなります。
攻撃や魔法はもちろんのこと、アイテムも使えません。
無抵抗のままHPだけが減っていく……。
そして、神殿へと送られます。
あの恐怖を、わたしも何度か体験しました。
しかし、さすがは
特殊攻撃は麻痺ときましたか。
あれ? アバターがフリーズしたのは、それが原因だったのでは??
一瞬、女神様の顔が頭に浮かびました。
でもすぐに気持ちを切り替えて、お話に戻ります。
「なるほど……確かにそれだと、
「そうなのよ。だから、ディーネの力を借りたいの。一応確認しておきたいんだけど、
あれは確か、レベルが60に上がった時だと記憶しています。
なので……。
「もちろん使えますよ。ですが、寝たきりなら
あらゆる状態異常を解除し、さらにHPも満タンにするので、お得な回復魔法だと言えます。
何を隠そう
クエストの時は、この魔法ばかり使ってます。
わたしにとっては日常的なものなので、気軽に勧めてみたのですが……。
ドーラさんは、目を丸くしてました。
「え? あんな高等魔法を使えるの?!」
「ええ、まあ。神官さんですし」
「いやいや、ハイエルフの神官様でも使えるのは、大神官様くらいよ?」
「そうなんですか? 神官さんなら、
「まさかとは思うけど、ディーネは使えるの?」
「ええ、まあ。神官さんですし」
「ディーネって、女神様だったのね」
「いえ、神官さんです」
「…………」
あれ? そんなに驚くことですか??
まあ、死亡判定がされてから一分以内に発動しないと、神殿送りになるんですけどね。
こちらの世界で使うと、そのあたりのことは、どうなるんでしょう?
ちなみに
ごく普通なことを言っているだけなのに、何故かドーラさんは黙ってしまいます。
なので、わたしがお話を進めることにしました。
「ではドーラさんのお母様には、
「……あ、うん。それで、お願いするわ。報酬は金貨6枚で良いかしら?」
「そんなに、いただけるんですか?」
「神官への依頼になるからね。これくらいは当然よ。もしかすると、もっと高いかもしれないし……正直な話、
人族だとお金が大変?
その意味は理解できませんが、わたしには関係ないので首を横に振りました。
「いえいえ、正規の料金がわからないなら、金貨3枚で良いですよ。それに、お金には困ってませんから」
「お金に困ってないって……ディーネって、本当に人族なの? なんか別次元の種族を見ている気がするわ」
まあ、別の世界から来ましたからね。
ドーラさんの言っていることは、あながち間違いではありません。
もちろん、そんなことは口にしませんが。
とりあえずお話がまとまったので、これがわたしの初めてのお仕事になりそうです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「シリフィ、あとのことは任せるわね」
「はい。リジェンさんに、よろしくお伝えください」
「元気になったらね。じゃあ、よろしく!」
ドーラさんはシリフィさんに手を振り、ギルド会館をあとにしました。
わたしもドーラさんに続きます。
お家に向かう間、わたしたちは他愛もないお話をすることに……。
「ドーラさんのお母様って、どんなかたなのですか?」
「そうねえ。この町唯一の
ほお、お水の魔法を使う冒険者さんですか。
なんだか親近感が湧きますね。
思わず笑みがこぼれます。
ところがドーラさんは呆れた表情を見せていました。
「昔は名をはせた冒険者だったみたいだけど、フェンリスヴォルフに襲われるなんてね。エルフなのに、どうかと思うわ」
「その言い方だと、エルフさんはフェンリスヴォルフさんに襲われないように聞こえるのですが……」
「少なくとも、この町に住んでいるエルフは襲われたりなんてしないわよ? あたしたちは『
そこまで話すと、ドーラさんは口を噤んでしまいました。
ちょっと気になりますね。
でもそれ以上にわたしの気を引いたのが『
もしかすると、あの黒いフェンリルさんに会えるかもしれません。
怖さよりも、あのモフモフに触れたいと言う気持ちが強まっていました。
ここを立ち去る前に、もう一度『
そう心に決めた時……。
カンカンカンカン!
……と激しい鐘の音が町中に鳴り響いたのです。
それを聴いていたエルフさんたちが、突然怯えだし始めました。
その一方で隣にいるドーラさんは、明らかに不快な態度を示します。
「ちっ、こんな時に……」
そう言いながら南の空を見上げました。
わたしはドーラさんの視線の先を目で追いかけます。
すると町から1キロほど離れた上空に、真っ赤に染まった飛翔体が見えたのです。
遠くにいても、ハッキリと確認できます。
間違いありません。
あれは『エンシェントワールド』でも最強かつ、最大級のモンスターさんのおひとり……。
ドラゴン族のフレイムドラゴンさんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。