『ウンディーネさんと町の守護神』

 フレイムドラゴンさんの襲撃から一夜明け、わたしは再びギルド会館へと足を運びます。

 中に入ると、見覚えのあるギルド職員さんと目が合いました。


「シリフィさん、こんにちは」


「ウンディーネ様! こんにちはです」


 うーん、そのお名前で呼ばれるのは、やはり抵抗がありますね。

 ドーラさんなんて、そこに水の女神官アクアプリーステスと付け加えたほどです。


 あれは絶対に広めてはいけません。


 そんなことを思っていたからか、シリフィさんは心配そうに、わたしのことを見つめました。


「ウンディーネ様? どうかされましたか??」


「いえ。できればシリフィさんもドーラさんみたいに『ディーネ』と呼んでくれませんか? 偉大な精霊さんと同じお名前だと思うと、恥ずかしいものがあるので……」


「恥ずかしいだなんて! ウンディーネ様は十分偉大な方ですよ? 少なくとも、このイールフォリオの町にとっては」


 そう言って、シリフィさんは一枚の紙をわたしに差し出します。

 サイズはA4くらいでしょうか。


 そこには見出しみたいな大きな文字と、女の子の絵が描かれてました。


「これはなんですか?」


「ギルドで発行している号外です」


 号外? そんなものがあるんですね。


「えー、なになに……ウンディーネ様、フレイムドラゴンを撃退する。イールフォリオに新たな水の守護神アクアガーディアンが…………」


 そこまで読んで、わたしはシリフィさんに視線を戻しました。


「もしかして、これって……わたしのことですか?」


「はい。そうですよ。絵は私が描きました。似てなくて、すいません」


 確かに似てないですね。

 わたしはこんなに可愛くありませんから。


 いかにも美少女と言った女の子の絵を横目に見ながら、シリフィさんに言葉を返しました。


「それは良いんですけど、なぜこんなものを作ったんですか?」


「町の住民たちから問い合わせが殺到したのですよ。誰が町を救ってくれたのか……と。それで、このような号外を出させていただいたのです。迷惑でしたか?」


「迷惑ってことはないですよ。ただ、人族ってエルフさんから見ると、とても低い種族ですよね? そんな人族のわたしが町を救ったとなれば、嫌な気持ちになったりしませんか??」


「ただの人族であるなら、そう言った感情を持つエルフもいるかもしれません。ですが、ウンディーネ様が使った水魔法は、かつてこの町を守っていたエリミア様と同じレベル……いえ、それ以上の魔法でした。それにウンディーネ様は神官様でもありますから、人族であっても邪険にする者などいません。ですから、ずっとこの町にいてくださいねっ♪」


 お話が終わると同時に、シリフィさんは満面の笑みを浮かべます。


 言えない……。

 今抱えているクエストが終わったら、この町を出ていくだなんて。


 それにしてもエリミア様と言いましたか、昨日リジェンさんからも聞きましたが、有名なエルフさんなんですね。

 お水の魔法を使えるようなので、機会があればお会いしたいところです。


 それはさておき。

 昨日保留にしていたクエストに取り掛かるとしましょうか。


 わたしは改めて水源調査のクエストに目を通します。

 そこで、ある共通点に気づきました。


「あれ? この湖の名前って……さっきシリフィさんがお話されたエリミア様ってかたと同じ名前ですよね。なにか関係があるのですか??」


「ありますよ。エリミア湖はエリミア様が管理されていた湖ですから。とは言ってもそう呼ばれるようになったのはつい最近のことでして、昔は誰にも知られていない無名の湖でした。エリミア様の死後、偉大なる水の守護神アクアガーディアンを称えて、エリミア湖と名付けられたのです」


 エリミア様はすでにお亡くなりになっているんですね。

 だから号外に『新たな水の守護神アクアガーディアン』などと書かれていたのですか。


 なるほど、納得です。

 ですがお会いしたいと思っただけに、残念でなりません。


 でもまあ、そんなに凄いエルフさんが管理していた湖なら、すぐにでも見てみたいところです。


 きっと素敵な場所なんでしょうね。

 落ちかけていたテンションが、持ち直しました。


「それでエリミア湖なのですね。ではこれから調査に向かおうと思うので、詳しい行き方を教えてもらっても良いですか?」


「え? 今からですか?? 昨日、リジェンさんの治療も行ったんですよね?! かなり魔力を消費されたと思うのですが……」


「魔力なら回復してますよ。宿屋さんで、ぐっすり寝ましたし」


 ゲームでもそうですが、HPや魔力なんてものは眠れば回復するんです。

 そもそも、そこまで魔法を使ってませんからね。


 それよりも宿屋さんで食べた朝食に感動しました!


 バターロールに似たパンと、温かいコーンスープ。

 なにせ病院食は、お粥ばかりでしたから……。


 あんなにしっかり味のついた食事は滅多に食べられません。

 美味しすぎて、おかわりしちゃいました。


 そう言えばゲームでも『食料』を使えば、HPと魔力の回復ができましたっけ。

 リアルのわたしはお肉やお魚が食べられなかったので、果物ばかり購入してましたが。


 あの果物って、こちらの世界で食べたら味とかわかるんですかね?

 あとで試してみようと思います。


 そんなことを考えているわたしの前で、シリフィさんは目を丸くしてました。


「一晩寝ただけで……ウンディーネ様は本当に凄い方なのですね。でも少しだけお待ちいただけますか? 昨日の報酬を用意しますので」


「報酬? リジェンさんの治療費なら、ドーラさんからいただきましたよ??」


「そちらではなく、フレイムドラゴン撃退の報酬です」


 そして現れる、大きな革袋。

 それがカウンターにズシンと置かれました。


「まさかとは思いますが……これが報酬ですか?」


「はい。金貨200枚になります」


「200枚?! 確かこの報酬って、町にいる冒険者さん全員に分配されますよね??」


 『都市防衛戦』は複数のプレイヤーさんが、同時に参加できるクエストです。

 なのでクリアした場合の報酬は、参加した人数で割られます。


 わたしはいつも金貨2~3枚くらいもらってました。

 ですからこれは、何かの間違いに違いありません。


 革袋ごと返そうとしましたが、それをシリフィさんに止められます。


「ウンディーネ様の仰る通り、フレイムドラゴン撃退の報酬は冒険者に分配されます。ですがそれは、町を救った冒険者のみに与えられるものです。冒険者に、その権利はありません。それに……この報酬は、冒険者の寄付金によるものです。今年は復興資金として使われなくて良かったですよ」


 所々語気を強めてお話されてますけど、気のせいですよね?

 シリフィさんは笑顔のままですし……。


 あと、こちらの世界でもクエストに失敗すると復興の名目で所持金を徴収されるみたいです。

 寄付しなくても良いように次も頑張りたいと思います。


 ここではない別の町で……。

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