『ウンディーネさんと初めてのお仕事 ①』

 女神様の手違いにより、わたしの名前は『雲泥うんでい寧々ねね』から『ウンディーネ』になってしまいました。


 ショックと言えばショック。

 なにせ、お水の精霊さんと同じお名前なのですから。


 思い出しただけで恥ずかしさが込み上げてきます。


 でもまあ、これは百歩譲って良しとしておきましょうか。

 ここは『エンシェントワールド』の元になった世界とのことですし、アカウント名が少し変わっただけだと思えば然程気にすることでもありません。


 要は『ウンディーネ』だと名乗らなければ良いんですよ!


 ただ……お名前を間違えたお詫びにと、女神様が授けてくれた『加護』が、とんでもないものでした。


 ユニークスキル『不老不死イモータリティ』。


 即死以外なら、どんな状態異常からでも回復するのだとか。

 仮に腕を切り落とされたとしても、即座に再生するそうです。


 しかも……老化しないと言うオマケ付き。


 流石は再生の女神様、ユニークスキルが洒落になってません……。


 そんな凄いスキルを与えてくれた女神様とは、神殿でお別れしました。

 女神様だけに、地上には長居はできないとかなんとか。


 それが本当かどうかは怪しいところがありましたけどね。

 最後まで土下座したままでしたし。


 もしかするとミスばかりしてたので、居づらかっただけかもしれません。


 それにしても土下座したまま光の柱に消えていく様は、シュールと言うかなんと言うか……。


 結局一人残されたわたしは、早々に神殿を出ることにしました。

 そして今、イールフォリオの町を散策しています。


 中世を思わせるレンガ造りの街並み。

 その景色はゲームの中と変わらないように思えました。


 違うところと言えば、肌に風を感じたり、パン屋さんから漂う美味しそうな匂いがすることでしょうか。


 ゲーム内だと五感とか感じませんからね。

 それが少しばかり不思議な感覚だったりします。


 それと、もうひとつゲームとは異なることがありました。


 それは……自分の姿です。

 ゲームではスタイルの良い、大人の女性をアバターにしてたんですけどね。


 ふと覗いたお店の窓ガラスには、フード付きの青いローブをまとった女の子が映っていました。

 背が低く、貧相な体形の女の子。


「これ……どう見ても、現実リアルのわたしですよねぇ……」


 ゲームと同じ能力だと聞いていたので、アバターも同じかと期待してましたが……どうやら違うようです。


 結構気に入ってたんですけどね。

 自分の理想を描いた姿でしたし。


 成長すれば、いつかアバターのようなスタイルの良い女性になれるかもしれない。


 そんなことを夢見た時もありました。

 余命宣告をされるまでは……。


 でも今度は『不老不死イモータリティ』のスキルが、その夢を断ち切りそうです。

 老化しないと言うことは、成長しないと言うこと。


 つまり……一生このままの姿なんでしょうね。


「はあ……」


 ここに来てから、溜息の回数が増えたように思えます。

 でも嘆いても仕方ありません。


「とりあえず、お仕事を探すとしますか」


 働かないと生活できませんからね。


 わたしは顔を隠すようにフードを深くかぶり、ギルドに向かって歩き出すのでした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 歩くこと数分。

 わたしは町の中心部にある、ギルド会館の前に立っていました。


 ここを訪れるのは、ゲームの時を含めて二回目となります。

 それでも新鮮に見えるのは、ここが現実の世界だからなんでしょうね。


「そう言えば、イールフォリオのギルド会館って、二階建てでしたっけ」


 神殿はどこの町に行っても、似たような造りになっています。

 ですがギルド会館は、町の規模によって構造が異なるのです。


 その多くは三階建て以上の大きな建物。

 それらに比べるとイールフォリオのギルド会館は、こじんまりした感じがします。


 辺境の地にあるからですかね?


 そんなことを思いながら、ギルド会館のドアを開けました。


「お邪魔します……ん?」


 フードを脱ぎながら中に入ると、ホールにいる冒険者さんらしき人たちの視線が、わたしに集まったのです。

 その数は、およそ10人ほど。


 何故でしょう。

 皆さん冷たい目で、わたしを見ています。


 もしかすると冒険者さんだと思われてないのかもしれませんね。

 見た目が貧弱ですから。


 わたしは周りの視線を避けるようにして、クエストが貼り出されている掲示板へと移動しました。

 そこで自分ができそうなクエストを探します。


「えー、なになに……『エリミア湖の水源調査』。推奨ランクはシルバー、報酬は銀貨10枚ですか」


 見たこともない文字でしたが、ちゃんと読めますね。


 女神様が言う通り、この体はこちらの世界に適応しているようです。

 それだけで、ホッとした気持ちになりました。


 エリミア湖には行ったことがありませんが、場所に関してはギルドの職員さんに訊くとしましょう。

 調査関係のお仕事なら危険は少なそうですし、なによりも報酬が魅力的です。


 銀貨10枚と言ったら、5日分の宿代になりますからね。

 ギルド直営の宿屋さんは、どこに行ってもお値段一律で助かります。


 ちなみに『エンシェントワールド』の通貨は、金貨と銀貨、それと銅貨の三種類しかありません。

 銅貨60枚が銀貨1枚と同じ価値で、銀貨20枚が金貨1枚と同じ価値です。


 ゲームの中だと銅貨1枚でパンが購入できるので、日本円にすると100円くらいの感覚ですね。

 なので銀貨1枚が6千円、金貨1枚が12万円みたいな感じです。


 そう言えば、女神様は全てのアイテムをこちらの世界に持ってきたと言ってましたっけ。

 そこにお金も含まれているのでしょうか?


 今身につけている青いローブもゲーム内で得たアイテムですから、可能性は十分にあると思います。


 わたしはバッグに手を入れて、金貨を1枚、頭の中に念じました。

 すると手のひらに、念じた通りの金貨が現れたのです。


 お! やはり、お金も移動されてましたか。


 確か……最後に金貨の枚数を確認したのは半年前でしたっけ?

 その時、10万枚は優に超えていたと記憶してます。


 あれ? それなら、お仕事を探さなくても良いのでは??


 金貨を眺めながら、そんなことを考えていると、不意に後ろから声を掛けられたのです。


「ギルド会館へようこそ」


 そこには、わたしよりも幼く見える女の子が、ぺこりとお辞儀をしてました。

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