第12話 買収現場
メイド風女子の差し出した1枚の大金貨。
それを見た店主の目の色が変わる。身体がぷるぷると震える。
卑しくも店を買おうなどという2人への怒りだろうか。
店主は身体だけでなく、唇もふるわせている。
だからちょっと聞き取り難い。
「ま……まい……ど、ありーっ」
なになに、毎度ありーっ?
「なっ、なんでやねん!」
思わず店主にツッコミを入れる。
「だって、大金貨だよ! 一生、遊んで暮らせるよ!」
「ででで、でも、さっきは100枚積まれても手放さないって!」
「そんなこと、言ったかなぁ?」
「言ったじゃん!」
「まぁまぁ、そこの小銭は君たちにあげるから。バイト代ってことで!」
「そんなもの……」
……要らない! と、言い終わる前に、アイラが割って入ってくる。
「……ありがとうございます。こんな大金、うれしい限りです」
アイラはそのままお金を集め、財布の中にしまい込む。
「ねっ。君も早々に立ち去っておくれよ」
すっかり人が変わってしまった腑抜けの店主にそう言われては興醒めだ。
僕は菜箸を静かに置く。もう、2度とこの店には来まい。
「そこの店員……」
追い討ちをかけてくる姫様風女子。僕はギッと睨み付ける。
「……天麩羅、焦げてるわよ!」
黒い煙がモクモク。僕は慌てて菜箸を持ち、キスの天麩羅を持ち上げた。
「もう、いいから。さささ、行った行った!」
最後は店主に促されて、僕たちは店を出た。
しっかり天麩羅を揚げ切ったのは言うまでもない。
西の館に戻る途中。
シャルに対するキス未遂事件のことを釈明する機会に恵まれた。
アイラは真剣に僕の言うことを聞いてくれて、1つの結論を得たようだ。
「つまりトール様は『年増好き』ではないんですね」
「もちろんだとも。そんなふうに見えるかい?」
「いいえ。正直、キャスに言われたときは意外でした」
「だろう。僕は至って普通、ノーマルだからね」
「それも疑わしいですね……」
「なっ、何で?」
立ち止まって、アイラを見る。
アイラは顔を赤くして、はぐらかすように言う。
「そっ、それよりさっきの店主のこと、1発殴ってきていいですか……」
何を急に言い出すんだ? さっきまではあんなによろこんでいたのに。
「パーならいいですか? 本当はグーでいきたいんですが!」
アイラは止められないほどに怒り心頭に発しているようだ……。
それでも僕は、その名を呼ぶ。
「ねぇ、アイラ……」
「何でしょうか、トール様?」
我にかえるアイラ。僕は何を言おうとしたのか忘れてしまい、
もう1度その名を呼ぶと、止まらなくなる。
「アイラ………アイラ………アイラ………アイラ………アイラ……………」
「……トール様……トール様……トール様……トール様……トール様……」
僕は、アイラと名前を呼び合うだけで幸せだ!
はなしが元に戻る。
「それでも『メルヘン』は正解ですね」
「強く否定できない自分がいるのは確かだな」
おとぎばなしを思い出して行動してしまったのだから。
「だったら、いいじゃないですか。『メルヘンご主人様』、素敵です!」
アイラが笑う。
「そうかい? キモくないかなぁ……」
「そう思っている人は、西の館にはいないと思いますよ」
だったらいいな。
西の館に戻る。
留守番していたエミーとリズとシャルが大騒ぎしている。
理由はお米が届いたんだけど、その量が半端ない!
おにぎり何食分だろうか。
「あー、明後日にはこの10倍は届くとのことです」
「こんなにもらうなんて、すごいすごい、すごーい!」
「これでもう、食べるもののしーんぱーい、ないさーっ!」
腐る前に食べ尽くせるかの心配はある。
そこへ、荷車を引いた男がやってくる。
「あのぉー、西の館はここでええかぁ?」
「はい。そうですが、どうかしました?」
アイラが明るく対応する。
「よがった、よがった。お届けもんだぁ!」
男はそう言いながら振り向き、遠くに手を振りながら叫んだ。
「おーい、こごであってっぺー!」
男はどうやら小麦と砂糖を届けにきたようだ。
荷車は合計20台。今日作ったチュロス何食分だろうか……。
「明後日には、こんの10倍をお届けにあがりますもんで!」
食べきれないのではという心配がさらに増えた。
キュア・ミアとキャスが買い物を終えて無事に戻った。
あとはまったり、夕飯を食べて寝るだけ! そう思った直後のこと。
ハーカルス宮殿から父王の使いがやってきた。
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