第43話 尽きることのない悩み
呟きに、まさかの返事!
「あなたは本当に短絡的ね。まさかご本人様に訊くだなんて!」
しかも、エーヨから。そもそも訊いたつもりはないのだが。
人の家に勝手に上がり込んでいるエーヨが悪い。
自分のことを自分でご本人様というのも大概だ。
いや、ご丁寧に返答してくれたのを感謝すべきだろうか。
本を読みながらとはいえ、はっきりと答えてくれたんだから。
はじめて会ったときは、もっと冷たかった。
「そもそも笑いとは内面の変化が表面化する現象……」
「……はいはい。訊いた僕が悪かったよ!」
訊いたつもりはないのだけれど。
アイラがお茶を淹れて戻ってくる。
本当はアイラと2人で飲もうと思っていたのに、エーヨに取られてしまう。
「メイ!」
「はいっ、かしこまりました」
エーヨにメイと呼ばれたのは、エーヨのメイド。
どこからともなく現れて、ティーカップから昇り立つ湯気をフーフーする。
「ふぅーん。エーヨって、猫舌なの?」
「それもあるけど、メガネが曇ると本が読めないでしょう」
エーヨは猫舌。笑わせるには不要な情報のようだ。
もっと、有効な情報はないものだろうか。
少しエーヨと距離を取るために外に出る。
独りになりたかったんだけど、ムリのようだ。
なぜかチャッチャとハーツがいる。
「しゃしゅがはBGCR第にょん位。西の館は美少女率が高いにょら!」
よだれモードのチャッチャは無視。
「なぁ、トール。リズやったら何か知っとるかもしれんよ!」
ハーツ、ナイスだ! 僕は、リズを呼んだ。
「なぁ、リズ。エーヨはどうしたら笑うんだい?」
「えーっ、そんなの、ご本人に訊けばいいじゃないですか」
その結果、リズを呼ぶことになったんだが。
「ちょこりょでリズ。君はにゃぜしょの……すごさを隠すんだい?」
王子モードにチェンジしたところで、無視するのには変わりない。
「質問を変えたらええんよ。『リズはいつエーヨの笑顔を見たんや?』とか」
ハーツ、ナイスナイスだ!
「どうなの、リズ」
「えーっ、夕方? 本を読んでました。お風呂に入って」
そのとき、リズはすごかったんだろうか。
エーヨもエーヨだ。入浴中に本を読むなんて!
「私には分かる。リズも脱いだらすごいクチだろう」
完全無視!
でも、何かが引っかかる。それが分からない。
「『も』って、他にも脱いだらすごいんがおるん?」
ハーツ、ナイスナイスナイスだーっ!
お風呂場ってことは、裸と裸の付き合い!
リズもエーヨも脱いでいたに決まってる!
「なぁ、リズ。そのとき、エーヨはどんな格好だった?」
「あぁっ。それはね……」
言いながら服を脱ぐリズ。止める間もない。
「……もちろん、こういう格好だよっ!」
すっ、すごい。すご過ぎる。
リズが文字通り身体を張ってくれたけど、何の足しにもならない。
たとえ、エーヨが『脱いだら笑い上戸になる』としても、
まさか宮殿舞踏会で脱がせるわけにはいかない。
戦争になるか、あの絵画をばら撒かれる!
何のヒントも得られないまま、部屋へと戻る。
そこにいたのが第8のメイド、トーレだった。
トーレはハイブランド・トーレビアンの創業者でもある。
ハーツの服を製作したように、エーヨの服も製作していないだろうか。
もしかしたら、何か知っているかもしれない。
「やぁ、トーレ。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「あら、トールご主人様。お断りいたします!」
キッパリだ。
「まだ、何も聞いていないけど……」
「聞かれずとも分かります。どうせ、エーヨ様のことでしょう」
いつもの自由奔放さの欠片もない。どんより沈んでいる。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
「あの人、おかしいですよ!」
今度は急に怒り出す。
「だって丸裸にして48ヶ所も測定して、最高の服を製作したんですよ。
なのに全く笑わないだなんて! 絶対におかしいです。呪われています!
! そうか、そうだったんですね。エーヨ様は呪われてるんですわ。
だったら、私のデザインが敗北したわけではないわーっ!」
言いながら、どこかへ行ってしまう。最後は、相変わらずの自由奔放さだ。
お陰でやっと1人になる。
本当はアイラと2人がいいけど、集中して考えるには申し分ない。
エーヨのことを考える。
最初に会ったのは街のうどん屋。本を読みながらうどんを啜ってた。
お次は宮殿の中庭。本を読みながら僕と二言三言会話したけど、
好きな本を聞いたら黙ってどこかへ行ってしまった。
何か、捨て台詞のようなものを言ってはいたかもしれない。
チャッチャのゲームでも昨日の早朝ピクニックでも、ずっと本を読んでいた。
ハーツのゲームでもずっとだ。いつ見ても黒縁メガネをかけて仏頂面で地味。
でもリズは、ハーツなんか比べものにならない美少女だと言う。
ころころと笑う顔が、とても眩しかった、と。
トーレの証言から、リズのように『脱いだらすごい』的なのでもなさそう。
どうしてリズだけが、美少女エーヨを知っているんだ?
どうすれば、エーヨを笑顔にできるんだ?
リズは、エーヨの何を見た?
僕の悩みが尽きる日は来るのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます