第34話 ホンモノの

 続く長兄が選んだのは塩辛! これはムリそうだ……。


「男は黙って塩辛だーっ!」

 誰か長兄に教えてあげてくれ。ハーツは女子だってことを。

大方の予想通り、即時ハーツに食い千切られた。


 さすがの会場もブーイングの嵐だ。長兄のやる気が感じられない。

そんななか、長兄のチョイスに肝を冷やしていた人物がいた。次兄だ!


「まさかカーエル兄さんが気付いていたとは……」

 次兄は、長兄の何をそんなに警戒しているのか?

僕には分からない。次兄の次の言葉を待つ。


「……だが、真にハーツ殿に似合いなのはこれだ!」

 言いながら取り出したのは……。


「デスソース?」

 めっちゃ辛いものだ。ハーツは苦手のはずだけど、どうして?


「そう、辛いものだ。ハーツ殿には甘いものなんか似合わない」

 いろいろ間違っている。ハーツは甘いものには目がない。

その証拠にチョコレートはかなりの食いっぷりだった。

次兄が甘いもの好きだったら、そこでゲームが終わっていたかもしれないほど。

だからこそ疑問だ。解決には訊くのが1番。


「1巡目は甘いもの、2巡目は辛いもの。どうして?」

「チョコレートは、兄さんやトールの選択眼を狂わせるためのもの」

 僕の選択眼が狂わされているだって?

僕が砂糖やマシュマロを選んだのはチョコレートのあと。

甘いものなら上手くいくという手応えがあった。

でも実際は、チョコレートは成功していない。


 僕は気付かぬうちに、次兄に操られていた……。

知らず知らず、成功していない方法を正攻法と決め付けていた。


「真にハーツ殿に似合いのもの。それは……ダイエットフードだーっ!」

「ダッ……ダイエット……フード……だと⁉︎」

 ハーツは胸以外は痩せ型だ。脚も長いし、顔も小さい。


「そう、ダイエットフード。ハーツ殿はダイエット中だ!」

 言われてみれば今日のピクニック中、ハーツはおにぎりに手を付けていない。

ハーツがダイエット中というのには信憑性がある。


「ダイエット戦士に甘いものは禁物!」

 そうだったのか……でも、どーしても分からないことがある。


「どうしてそれを教えてくれたんですか? それが分かれば僕にだって……」

 チャンスはある。そう続けるのを遮られる。


「トール、君は本当におめでたい。順番が巡ってくると思っているのか?」

 このあとは次兄、長兄、次兄、僕の順。

次兄は僕の順番が巡ってくる前に決めるつもり。


「そんなぁ……それじゃあ、ハーツは!」

「ハーツ殿こそが、次期国王の妃となるのだよ!」

 場内が騒めく。次期国王を決めるのは現国王の固有の権利。

それを知ってての発言となれば、謀反の疑いをかけられても文句は言えない。

頭が良くて慎重な性格の次兄にしては、気合が篭っている。

それだけ次期国王になることに手応えがあるのだろう。


「さぁ、ゲームの続きをしようじゃないか!」

 次兄が目隠しをする。係の人の案内で席に着く。

次のゲームがはじまる。そして……。


「あっ、あれぇ? おっかしーなぁ……」

 ハーツがあっさり食い千切ったあと、次兄はそう言った。

このゲーム、一筋縄にはいかない。




 最終ターンを前に、ハーツが目隠しを外す。


「終盤に差し掛かったんで、うち、着替えてくるで」

 何故? と思うが、周囲はハーツのお色直しに期待する。

ハーツの人気の高さが窺える。イロモノでない、ホンモノの美少女だ。

ただし、国を傾けるほどの破壊力がある。近付かないのが身のためだ。


 ハーツに代わり、ヒーライが登場。膠着している場を盛り上げる。

黄金色の半被にド派手な黄金色のメガホンを持っている。

そして他にも黄金色がある。ヒーライの横に立っているのはチャッチャ様だ!

その長い髪が場内に微かに流れる風に靡く。


「ここでスペシャル解説員をご紹介いたします!」

 と、1オクターブ高い声のヒーライ。


「チャッチャ・イエスカーブ。近衛騎馬隊隊長だ!」

 自己紹介を凛々しい王子モードで決めるチャッチャ様。


「早速ですがこの勝負、どのような結末を予想致しますか?」

「最も侮れない存在は、やはりトール殿でしょう」

 名前を呼ばれて、ちょっと恥ずかしい。周囲の視線が恥ずかしい。


「それは、何故?」

「彼にはとても優秀なメイドがついています」

 みんなの優秀さにチャッチャ様は気付いているのか!

あるいは、単に見た目が好みということだろうか。


 ヒーライが驚きを口にする。周囲も同意見だ。


「メイド? 西の館のメイドは底辺メイドなのでは?」

「そんなことはない。彼女たちの言葉に耳を傾ける度量が、トール殿にはある」

 何ともこそばゆい。僕に度量があるだなんて、言われたのははじめて。


「なるほどーっ! チャッチャ様はトール殿下の勝利を確信しているのですね」

「あくまでもメイド次第。トール殿の能力とは無関係ではある」

 最後が余計だって!

けど、僕のことよりメイドたちみんなのことを褒められたのがうれしい。

僕はてっきり、チャッチャ様は見た目で判断する人だと思っていた。

今度会ったらちゃんと謝らないと。


 ゲームは続く。

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