第33話 ハーツは何と戦う?
刻が進み、宮殿舞踏会がはじまる。
ティアラを載せているハーツが主催するゲームは
「チュロスゲーム、やで!」
ド直球だ! 華麗に決めなきゃ。
男女が向かい合い、長いチュロスの両端を咥えてはじまるチュロスゲーム。
途中で切れて落としてしまうことなく互いの唇が接触すれば成功だ。
ちょっとドキドキする、王国では定番宴会ゲームの1つだ!
僕にとっては簡単!
の、はずだった。
今宵のチュロスゲームは違う。
目隠しして行うこと、僕たちが味付けすること、そして……。
唇が接触しなくても、ハーツの衣服に触れれば成功ということ。
この特別ルールによって、ゲームの難度が数段高くなっている。
ハーツには誰とゲームしているかが分からないからだ。
味付けでのみ自己を主張できるのだ。こんなルールで華麗に決められるのか?
とはいえ、僕がこのゲームにのめり込む必要はない。
ハーツにアタックできなかったからといって、大したことじゃない。
兄さんのどちらかがクリアしてくれればその分早く、
西の館でまったりのんびりすることができる。
の、はずだった。
「トールがクリアしてくれんと、うち、この国滅ぼしちゃうでっ!」
冗談には聞こえない。そういえばハーツは傾国の美少女だったーっ!
しかたがない。何とかして華麗にクリアしよう。
ゲーム中、プレイヤーは目隠しをされる。さらにハーツには耳栓もされる。
ゲームはターン制。
第1ターンの1人目は次兄のキルクール兄さん。
僕、長兄のカーエル兄さんと続く。
頭のいい次兄がどんな手を使ってくるのか、しっかり見学しよう。
次兄が選んだ味付けは、チョコレート!
「F0層に人気のフレーバーといえば、これで決まり!」
言っている意味が分からない。分からないけど、何故か凄そうだ。
決めにきているのは間違いない。
だが勝負は、意外な結末を迎える。
順調に食べ進めるハーツに対し、早々に食い千切ってしまう次兄。
まさかの自分からの食い千切り……自滅だ!
「しまった。私は甘いものが苦手だったんだ!」
なるほどこのゲーム、一筋縄にはいかない……。
双方の好みがピタリと一致しない限り、クリアは難しいということだ。
次兄にしては頭が悪すぎる。華麗さの欠片もない。
けど、次兄が甘いものが苦手なのは吉報だ!
だってハーツは甘いものが大好き、僕も大好き。
相性はバッチリ。甘い味付けで、華麗に決めてやる!
第1ターン、僕の手番。選んだのは砂糖。チュロスといえば砂糖だ。
チョコレートほどではないが、甘いものといえば砂糖だ。
味付けは様々あるが、チュロスの王道といえば砂糖だ。
昨日のことを思い出す。僕はミアと一緒にチュロス屋ではたらいた。
そのときに身につけた技を使えば、ハーツが食い付くチュロス作りは簡単!
このゲーム、楽勝じゃないか。華麗に決めるぜ!
目隠しをされる。係の人が僕の手を取って案内してくれる。
ゆっくりと腰掛けて、両手をぐぐっと前に差し出す。
それで届くほど短いチュロスではないけど、
少しでも早くハーツの衣服に触れるためだ。
少しでも早く西の館でまったりのんびりするためだ。
あと、ハーツに王国が滅ぼされないためだ……。
いよいよ実食開始。順調に食べ進める僕。対するハーツは早々に食い千切る。
「なっ、何でーっ……」
「…………」
ハーツは無言だった。何故、ダメだったのか。全く分からない……。
第1ターンの最後はカーエル兄さん。
選んだ味付けは……何もなし。男気が激しい!
「真のチュロス好きは、小麦の味を楽しむもの!」
フレーバーは邪道と言いたいようだ……。
勝負は一瞬で着く。双方とも早々に食い千切ったのだ。
どちらが早かったかで騒然となり、再現道化師が出動する始末。
スロー再現道化判定の結果、僅かに早くカーエル兄さんが食いちぎっていた。
「なんや、うち、嫌われとるんかなぁ……」
3度中2度も先に食い千切られたハーツが項垂れる。
だが、兄さんたちの目を見れば分かる。2人とも真剣だ。
第2ターンは僕から。はっきり言って自信がある。選んだのは、マシュマロ!
チュロスとしては邪道だが、対ハーツとしては最高のチョイス。
マシュマロで華麗に決めるぜ!
ところが、ハーツは直ぐに食い千切ってしまう。どうして?
「マシュマロなんかよりうちのの方が、重みも弾力もあるんやで!」
ハーツは言いながら両手でも収まり切らない胸を持ち上げる。
一体、ハーツは何と何で戦っているんだーっ!
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