傾国の美少女
第23話 オーディション
朝食に用意されたのはおにぎり。その場で海苔を巻くタイプだ。
人気の梅干・おかか・シーマヨはもちろん、僕の好物の紅ジャケもある。
塩・ゴマ・昆布はシャル用に残しておく。
一見すると普通のピクニックメニューだが、
おにぎり事件の翌日に『おにぎり』チョイスとは、キャスの悪意を感じる。
「トール様。それにしても、大変でしたね」
優しく僕を労ってくれるアイラ。宮殿に住んでいたころからのお決まりだ。
「そうなんだよ。父王の気まぐれに付き合うのも大変だよ!」
言いながら寝転がる。お腹が膨れて楽になりたいのもあるが、
みんなに揶揄われて、辛い気持ちをまぎれさせたいのもある。
「でもトール様が国王陛下に認められて王太子になったら、私はうれしいです」
僕を前向きにしてくれるアイラ。
期待されていると思えば、なんだってやろうって気持ちになる。
視界に拡がる青空。陽気と相まって、とても気持ちがいい。
それはそれは、清々しい5月の朝だ。ピクニックに来て、本当によかった。
西の館の主人として、みんなと一緒にやっていこうと前向きになる!
ぽつんと佇む小さな白い雲を掴むように、左手を掲げてギュッと空を掴む。
ややこしくも『再現道化の再現』に、キャスが割って入る。
実際に目にしているのは底辺メイドの中ではリズとキャスだけだから、
貴重な意見が聞けるのではと期待してか、珍しくエミーが目を輝かせる。
「違うよ、エミー。もっと、こういう感じだ!」
見事に恍惚の表情を披露するキャス。
たしかにエロさでいえば賞賛に値する。
けど実際はそこまでエロくはなかったはずだ。
「へぇーっ。やるじゃないの、キャス!」
「いいわね。とってもエロいわーっ」
と、キュア・ミアがやんややんやと声援を贈る。
「あー、な、なるほど……こういうこと!」
何も知らずにエミーが感心し、真似をするが、エロさのかけらもない。
「なな、なんと鬼畜な……」
シャル、誤解だ。チャッチャ様にはもっと恥じらいがあった。
「うーん。なんか、違うなぁ……もっと恥じらいがあったよーっ」
リズの言うことが1番まともだ。やっていることは1番イカれているが。
「あー、実際におにぎりされれば、分かるのかもしれない」
エミーが言い終わるより先に、みんなの視線が僕に注がれる。
特にキャスは、新しいおもちゃを見つけた子供の目で僕を見下ろす。
嫌な予感しかしない。都合悪く、僕の左腕は天に向かって伸びている。
しかも、グーにおにぎりして……。
「たしかに、あの黄金の左腕を経験しないと難しいのかもねぇ」
黄金の左腕……だと? 僕、そんなの持ってない。
持っていたとしても、キャスだって未経験だろうに。
「うん。たしかにおにぎりされると『はうぅ』って不思議な気持ちになるよ!」
知ったようなことを言うリズ。不思議な気持ちって、何?
僕はリズの胸なんて、おにぎりしていない!
おにぎりしたのは、チャッチャ様だけ。お陰でアタックしたことになっている!
それはいいとして、ちょっと待てよ……たしか、今朝……。
僕が昨夜の余韻に浸り左手をおにぎりしたときのこと。
リズはどこにいた? 僕の布団の中じゃないか? しかも全裸で!
僕のおにぎりに合わせて『はうぅ』ってなってた!
『ヒクヒックする』って言ってた。
あの感触は余韻ではなく本物。つまり、リズの胸だったとしたら……。
僕は、とんでもないものをおにぎりしてしまったのかもしれない!
真相は布団の、闇の中だ……。
「あー、それではおにぎりのご主人様。よろしくお願いします」
エミーが言いながら僕に近付いてくる。いやっ、エミーのは違うだろう!
控えめなチャッチャ様というよりは、大ぶりなハーツに近い。
文字通り、僕の手にはあまりそうだ。絶対におにぎりできない!
はっきりと断ろうと思っていると、キャス。
新しいおもちゃを見つけた子どもの目で言う。
「エミー、自分だけずるいよ!」
「あー、チャッチャ様を演じる以上、私にはその責任があるの」
何の責任だ?
「何も、エミーがチャッチャ様を演じる必要はないのよ」
「あー、キャスの言うことの意味が分からないわ」
たしかにキャスの言う通り。エミーではミスキャストだ。
では一体、誰がチャッチャ様を演じるというのだろう。
「だからつまり、オーディションよ!」
オーディション? キャスの目が輝いた理由はこれか。
オーディションでチャッチャ様役に相応しいのは誰かを決める。
キュア・ミアが素早い反応。
「それ、いいわね!」
「当然、私たちがエントリーしてもいいんでしょう!」
「もちのろん! 全員参加だよーっ!」
「ななな、なんと鬼畜な……」
シャルが顔を赤らめて言う。
そんなに恥ずかしがるだなんて、一体、何がはじまるのだろうか。
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