第21話 それはそれはお怒りで

 『1の2の1』ルールの2巡目。僕が3人に『あーん』した直後。

強い視線を感じた。わなわなというオーラもすごい。


「ふざけるな、許せない!」

 と言ったのは、チャッチャ様だった。近くで見るとまぶしい!

まぶしいけど、何故か怖い……許せないって、どういうことだ?

あっ、そうか。今日の主役はチャッチャ様だった。放っといたら怒るのが普通。

僕が悪い。ちゃんと謝ろう……と思ったが、そうはいかない。


「チャッチャちん、今、取り込み中なんや。他所へ行ってぇな」

「これは我が館のカレー丼。口出しは無用です!」

 ぱくぱくもぐもぐ食べ続け、口が空いたら文句を垂れる。

揃いも揃って主役をないがしろにしている。


 チャッチャ様がよけいに怒らなければいいんだけど……。

よく見れば顔を真っ赤にしている。すでに相当にお怒りのようだ。


「口を出すな、だと? 私には1口たりともくれてやらん、というのか?」

 ん? どういう意味だ?


「……これ以上、カレー丼を冷ますわけにはいかないの……」

「いくらチャッチャちんかて、許さんで!」

 2人とも強気だ。チャッチャ様にはほとんど目もくれない。

いくら好物だからって、カレー丼を食べることに夢中過ぎる。

ハーツと同じように強気ってことは、やっぱりこの地味な姫様風女子は!


「許さん、だとっ……がはっ」

 がはっ? いくらなんでもチャッチャ様はダメージを食らい過ぎでは?

かく言う僕も、カレー丼の魅力には抗えない。

キャスのチョイス、ご飯硬め、ルゥ濃いめ、キャベツ多めなんだもの!

食べることに集中したせいか、チャッチャ様の声が小さいのか、

僕は次の言葉を聞き逃す。


「うっ、うらやましい……」

 『うら』何だって? ぶつぶつ言っているなーぁってのは分かるけど。


「……いや、違うぞ。トール殿。貴殿はやはり、許せん……棒を握れ!」

 ぼっ、僕? 何も言ってないのに? 棒を握れって、勝負しろってこと!

そんなの、僕に勝ち目はないって……怒るならハーツ達にしてくれよ。

それとも、そんなにカレー丼が好きなの?

よく見れば、すごい量の涎を垂らしている。


 あー、さっきのは『うらやましい』って言ったのか。

分っかるーっ。チャッチャ様のカレー丼を思う気持ち、分っかるーっ。

でもだからって、このカレー丼をチャッチャ様に分けようとは思わない!


「……王子という地位を利用して、美少女を侍らせ『あーん』させるなんて!」

 いや、これは『1の2の1』ルールですから。

平等な分け方をしているだけですから。

王子という地位なんて利用してませんから。


「トール。『あーん』」

「……はい、『あーん』……」

「ご主人様、『あーん』」

「むっ、無視、する……のか……がははっ!」

 またダメージ食らってる。さすがにかわいそう……でも、カレー丼に罪はない。


「うちら、トールに強制なんてされてへんよ」

「……むしろ、進んでしていることですわ……」

「つまりこれは、西の館の問題ですから!」

「なはっ……今度は寄って集ってこの私を責める、のか……ぐふっ!」

 何か知らないけど、もう、やめてあげて……。


「いくら今日の主役かて、ちゃんと言わんと!」

「……混ざりたいなら、はっきりそうおっしゃい……」

「ま、これは所詮、西の館の問題ですが!」

 幾ら何でも煽り過ぎだって。チャッチャ様がかわいそう……。


「……いいだろう。言ってやろうではないか……」

 一瞬、チャッチャ様にはじめてお見かけしたときの凛々しさが戻る。

黄金色の長い髪に、青と白の近衛騎兵隊の制服の、チャッチャ様だ。

カレー丼を食するときは水を飲まない僕だけど、

凛々しく立つチャッチャ様の姿に、喉が渇くレベルでキンチョーする!


「それでは、おお、おね……お、おね……お願い……」

 チャッチャ様は全然、凛々しくない。

何がしたいんだ? ハーツたちには分かってるんだろうか?


「チャッチャちん、そんなんじゃあかんよ。はっきり言わなぁ!」

「まぁまぁ、ハーツ。そう急かさなくってもいいって」

 兎に角、チャッチャ様が頑張ってるんだ。聞き逃さないようにしよう!


「……あ、ああ、あ……あーん……」

「あーっ。みーつけた! ご主人様、カレー丼持ってきましたよーっ!」

 と、背中からややこしい声。リズだ! 今までどこほっつき歩いてたんだ?

でもこれで、チャッチャ様の分ができた。


「……ヌードっ子のリズではないか……まさか、今は西の館に?」

 普通にしゃべるチャッチャ様。


「あれーっ。チャッチャちん。そーだよ。今はご主人様がご主人様だよっ」

 説明になっていないぞ、リズ。でも伝わってはいるようだ。


「まっ、まさか、君も『あーん』するのか?」

「うーん。いいね、それ! ご主人様がしてくれるなら、して欲しいかも!」


「なはっ。トール殿、貴殿はどこまで……リズまで……」

 チャッチャ様の言っていることは分からないけど、

わなわなとオーラが出はじめたことから、

それはそれはお怒りなんだろうなと思う。


「あーっ、そうか。チャッチャちんは美少女には目がないからかぁ」

 と、リズが気になることを言う。

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