第15話 宮殿舞踏会
冷静になったハーツが持論を展開する。
「宮殿舞踏会って出来レースやって思うんよ」
「出来レース? ガチじゃないの?」
そんな発想、僕にはなかった。宮殿舞踏会はガチ。それが普通だ。
「3対3ではなく、1対1が3つってことや」
「1対1? 組み合わせが確定しているってこと?」
何よりも安定を好む父王の考えそうなことではある。
「カーエル様は軍事力のあるイエスカーブ家のチャッチャちん狙い」
「なるほど。イエスカーブ家と長兄が組めば鬼に金棒になりそうだ」
イエスカーブ公爵は大元帥として、国軍の半分を預かっている。
カーエル兄さんが軍事力欲しさにチャッチャ様に接触するはある。
「キルクール様は財力のあるオートスリア家のエーヨちん狙い」
「たしかに。今のオートスリア家の勢力を考えれば、充分にあり得る」
野心家の次兄のことだ。財力狙いもうなずける。
ハーツの考察は的を射ている! この2組、相性は抜群だ!
「で、トールとうちが溢れたもん同士でくっつくっちゅうことや!」
ハーツは言い終わるやエッヘンとドヤ顔を決め、少し背筋を伸ばす。
それだけでハーツの胸が弾むように何度も上下に往復する。うわさ以上だ。
ちなみにドンスカター領は大穀倉地帯で、王国の穀物生産の半分を担う。
ハーツの言うことには説得力がある。ただ1点を除いて。
「どうだろうか?」
「なんでやねん! なんで肝心のとこだけ否定すんやねん」
ハーツが手の甲でビシッと僕の胸をどつく。
その温もりを感じるだけでドキッとする。
「ハーツは自覚した方がいい。今のハーツなら兄さんたちが好きになるかも」
「トールは自覚してーな。トールは昔からうちに好かれとるんやで」
充分に自覚しているつもりだ。でもそれは子供のときのこと。
今のハーツは国を傾けてもおかしくないほどの美少女。
側にいるのも危険で、僕の理性を粉々にする!
好かれているのはうれしいけれど、とてもじゃないが手に負えない……。
「兎に角、宮殿舞踏会ではしきたりを守り、軽はずみな行動は避けよう」
「うん、分かったわ! でも……」
ハーツは自分の胸を両手で抱えながら続けた。
「…… 結構、重はずみやと思うけどなぁ」
たしかに、マシュマロ感と同様にずしりという感触がまだ右手に残っている。
頭を冷やそうと中庭に行った僕、かえって血が昇ってしまった。
これ以上中庭にいてもしょうがないのでハーツと別れてゲストルームに戻る。
出迎えてくれたのはリズだった。
「あれれ? ご主人様ったら、お風呂入ったの? のぼせてませんかぁ?」
「いやっ、その……」
言えない。中庭で何があったかなんて、言えない。
「ひょっとして、エロいことしてました?」
「いやっ、その……」
言えない。ハーツに抱きつかれて頭に血が昇ったなんて、言えない。
「エーヨちんに会って欲情したんですか?」
「エッエーヨちん? オートスリア家の……」
リズは西の館にくる前は3公爵家に仕えていた。
エーヨ様のことを知っていてもおかしくはない。
「……随分と親しげだけど」
「うん。リズね、何度か一緒に入浴したよ! だからすごさが分かるんだ」
リズはいつもは普通の美少女だけど、真価を発揮するのは脱いだとき。
脱いだらすごい、すご過ぎる! 僕も成り行きで1回だけど一緒に入浴した。
そんなリズがすごいというなんて、エーヨ様は一体、どこまですごいんだ!
久しぶりに喉越しのいい自分の唾をごくりと飲む。
「へっ、へーっ。そんなにすごいんだ。ハーツよりもすごいの?」
戯れに聞いてみた。ある程度の答えは予想して。
『ハーツっちとは一緒に入浴していないから分からないよ』とか、
『うーん、2人のすごさは甲乙つけ難いよ』とか。そんなところだろう。
だってハーツのマシュマロ感は危うく病みつきになるほどだ。
「うーん。チャッチャちんなら兎に角、ハーツっちじゃ相手にならないよ」
何というラスボス感! あのマシュマロが雑魚扱いだなんて!
僕は、とんでもない宮殿舞踏会に足を踏み入れているようだ……。
ハーカルス大宮殿の大広間。ついに、宮殿舞踏会が開場。
この日集まった招待客は総勢4000人!係の人を含めれば6000人はいる。
大広間が狭く感じられるのも無理はない。
並んでいるのは、超高級な料理の数々!
右には牛丼・かつ丼・天丼・うな丼・親子丼・鉄火丼・ねぎトロ丼に海鮮丼。
左にはカレーピザ・カレーパスタ・カレースープ・カレーうどんにカレーパン。
どれも王国が産み出したS級グルメだけど、中央の特設コートには敵わない。
それはもちろんカレー丼。ご飯硬め、ルゥ濃いめ、キャベツ多めがおすすめだ!
ウエイトレスは流行りの割烹着姿で統一されていて艶やか。
料理を次々に運んでは片付ける彼女たちもさぞや誇らしいことだろう。
いつも以上に動きが機敏なのもうなずける。
料理だけではない。音楽にも趣向をこらしている。
宮殿舞踏会を盛り上げる音楽隊・声楽隊は600人規模。
狂想曲に円舞曲に小夜曲に、カンツォーネ・ロック・演歌と何でもござれ!
やはり僕は、とんでもない宮殿舞踏会に足を踏み入れてしまったようだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます