第86話 リア・クラークは食堂でサイコロ型のラスクをつまみながら、ドロシーとお喋りをする

食堂でサイコロ型のラスクを取り、紅茶を淹れて会計を済ませ、私とドロシーは空いている席に座った。

夕食前の食堂は、人がまばらだ。

ドロシーはサイコロ型のラスクを口の中に入れ、飲み込んでから口を開いた。


「リアは、次の休みって何する予定?」


「女子寮で過ごすと思う。刺繍文字を頑張りたいんだよね」


「そうなんだ。あたしは『乗馬』の授業で仲良くなった子たちと出かける予定。リアも一緒に行こうって誘おうと思ったんだけど」


「ありがとう。でも、やめとくね。私『乗馬』の授業、一回受けただけだし、ヘルメットと鐙ができるまでは『乗馬』の授業には出ないで自主勉強とか刺繍文字をやろうと思ってるから」


ドロシーと同じくらい乗馬がうまい生徒たちとは、今は、話が合わない気がする。

私、子馬に乗って、手綱を持ってもらって歩いただけだから……。


「へるめっととあぶみってなに? 乗馬する時に使うもの?」


乗馬が好きなドロシーは『ヘルメット』と『鐙』というワードに興味を持ったようだ。

でも、人目がある食堂で、新商品の情報を伝えるわけにはいかない。

それに、ドロシーは口が軽そうだから、今は言いたくないんだよね。『ヘルメット』と『鐙』のこと……。

口が軽いのは、私もそうなんだけど。うっかり、ヘルメットと鐙って言っちゃったのが悪いんだよね。

私は自分の口の軽さを反省しながら、口を開いた。


「あるかどうかわからないし、作れるかどうかもわからない物なんだ。こんなのあったらいいなーって思いついたのを、手紙に書いてうちに送ったの。返事が来て、物ができたらドロシーにも教えるね」


「うんっ。楽しみにしてる」


ドロシーはしつこく食い下がらずにそう言って、言葉を続ける。


「あたしも、そろそろ『乗馬』以外の授業を受けなきゃなあって思い始めてるんだ。だから『乗馬』の授業の単位、取ろうと思うの」


テストを受けて単位を取れるくらいに乗馬がうまいドロシーが、ついに乗馬』の授業の単位を取る気になったようだ。

ネルシア学院は時間の余裕があれば、好きなだけ好きな授業を受け続けることができる。

ただ、基礎クラスの必修単位を取得し終えて初級クラスに進むと基礎クラスの授業を受けることはできず、初級クラスの必修授業を受けて中級クラスに進むと、初級クラスの授業を受けることができなくなる。

中級クラスや上級クラスの授業は、初級クラス等の基礎があって成り立つものもある。


「中級クラスって、どんな授業があるんだろうね」


私はそう言いながら、中級クラスの授業内容について考えを巡らせる。

たぶん漢字……『ネルシア上級語』の授業は必須で取らなければいけない気がする。

漢字、読めるけど、書くのは自信がない。漢字、書けるかなあ、私……。


「『競馬訓練』があるって聞いたよ。馬で障害物を飛び越えたりするんだって。あたし、絶対に取るんだ。『競馬訓練』の授業」


「そういえば『乗馬服制作』と『乗馬靴制作』の授業も中級クラスで取れるのかな?」


私は『乗馬』の授業の副担任の話を思い出しながら、首を傾げて言った。


「あたし『乗馬服制作』と『乗馬靴制作』の授業も取りたいっ。やりたいこといっぱいあって、時間が足りなくなりそう」


その後、ドロシーとお喋りをしているうちに晩ご飯の時間になり、私たちのテーブルにダレルとライナスが合流して、賑やかな時間を過ごした。

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