第85話 リア・クラークは転生者たちにラーメンの作り方を聞き『刺繍文字』の刺繍を再開する

「僕の……ヘレン・ミレンの『奇跡発動』スキルを使えば、僕以外の、日本への帰還を望む転生者たちを日本に送り返すことはできるかもしれないけど、僕は絶対死ぬから却下で」


刑事さんの言葉に、私と司書さんが肯く。

自分の魂を失ってしまったらダメだよね。


「だから『奇跡発動』スキル以外のスキルを取得することが当面の目標。あとは、学院が休みの日に、神殿に行ってみようと思ってる」


刑事さんの言葉に、司書さんが肯いた。

この世界には神様がいるようなので、神殿に行くというのは名案かもしれない。


「あの、話が全然変わるんですけど、聞きたいことがあるんです」


ヘレン・ミレンの『奇跡発動』スキルの話が一段落したところで、私は転生者たちに会ったら聞きたいと思っていた質問を口にする。


「ラーメンの作り方、知ってますか?」


「ラーメンの作り方は……インスタントラーメンは作れるけど、そういう話じゃないんだよね?」


刑事さんの言葉に、私は肯いて口を開く。


「私……ラーメンが食べたいんです……っ」


「そう言われると、僕も食べたくなってきた」


「井上さんの気持ちはすごくわかるけど、私はラーメンの作り方はわからないわ。うどんなら、なんとかできそうじゃない? パンがあるなら小麦粉はあるんだろうし」


刑事さんも司書さんもラーメンの作り方は知らないらしい。

残念……。


「あー。がっつり豚骨ラーメンが食べたい」


刑事さんが天井を仰いで言う。

外見は美人なお嬢様なので、違和感がすごい。

その後、転生者たちは私に、何か用事があったら部屋の扉の隙間から手紙を差し入れておくと言い、私から伝えたいことがある場合は、世話係のクロエを通して手紙を寄こすようにと言って去って行った。

結局、ラーメンの作り方はわからなかった。

私、一生、ラーメン食べれないのかなあ……。


嘆いていても仕方がない。

『刺繍文字』の刺繍を頑張ろう。

私は途中になっていた刺繍を再開した。


私が『減』の刺繍文字を縫い終えた時、部屋の扉をノックする音がした。

誰だろう?

刑事さんと司書さんが、また来たのかな。

私は針を針山に刺し、机の上に『刺繍文字』を縫っていた布を置いて扉に向かう。


扉を開けると、女友達のドロシーがいた。


「リア。今暇? 小腹が空いたから食堂に行こうと思ってるんだけど、一緒に行こうよ」


ドロシーは笑顔を浮かべて私を誘う。

そう言われてみれば、ちょっとお腹が空いてるかも。


「うん、行くっ」


私はドロシーに肯いて言った。学生証はまだ持ったままだから、すぐに部屋を出られる。

私は部屋を出て施錠し、ドロシーと並んで食堂に向かった。

そうだ。ドロシーに『ラーメン』を知ってるか聞いてみようかな。


「ねえ、ドロシー。『ラーメン』って知ってる?」


「らーめん? なんか楽しそうな名前だね。聞いたことないけど」


「そっかぁ。聞いたことないか……」


私はラーメンを食べられるかもしれないという希望を打ち砕かれた。

プリンはあったのになあ。この世界……。


「らーめんってなに?」


ドロシーは『ラーメン』に興味深々のようだ。

どう説明したらいいかなあ……。


「『ラーメン』っていうのは、小麦粉に水を加えて、生地を薄く延ばして縦長に細切りして茹でたものを、スープに入れて食べる物なんだよ」


私の説明は、ラーメンではなくうどんの説明かもしれないと思いつつ、うろ覚えの知識を披露する。


「へえー。お金持ちの子は面白い物を食べるんだね」


ドロシーはそう言ったきり、ラーメンについて追及しなかった。

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