第83話 リア・クラークは転生者が司書と刑事であることを知る

「司書さんと刑事さんは、私と『おおのしょう』が『ネルシア学院物語』の中にいることを、どうやって知ったんですか?」


私は自分がわからないことを、一つずつ聞いていくことにした。

私の言葉を聞いた司書さんは口を開く。


「井上さんが行方不明になった翌日、大野くんもいなくなってしまって。それで、昼休みのカウンター当番の図書委員の子が、大野くんが図書室で本を読んでいたことを覚えていたのよ。その本が『ネルシア学院物語』だった。井上さんも、読んだのよね?」


「はい」


私は司書さんに肯き、中学校の図書室で『ネルシア学院物語』を読んだ時のことを思い出す。

……なんだか、ずいぶん昔のことのような気がする。

司書さんは少し悲しそうな顔をして私を見つめ、少しためらいながら口を開いた。


「私は『ネルシア学院物語』を『読んでいた』から、主人公を含めた登場人物の動向は『本に書かれている文章』で知ってるの。井上さんが『リア・クラーク』として生きたいと思ってることもわかってるのよ。私を含めた誰もが、井上さんにとって『日本に帰りたい』と思える存在ではなかったことは寂しいし、残念だわ。でも、日本に帰る手段が見つかっても、井上さんの気持ちが変わらないなら、私はそれを尊重する」


「司書さん……」


司書さんの温かい言葉に、私は心が温かくなる。

大人が、中学生の私の気持ちをわかって、尊重してくれることが嬉しい。


「っていうか、僕たちも日本に戻れるかわからないけどね。もし、戻れるとしても10年後とかになってるなら、僕はこっちの世界に残ると思う。リミットは『半年』くらいじゃないかな。現実的に見て」


刑事さんがシビアなことを言う。

私は司書さんと刑事さんに視線を向けて口を開いた。


「司書さんと刑事さんは『おおのしょう』に会ったんですか?」


私がそう言うと、司書さんは吹き出し、刑事さんは瞬いた。

私、何か変なこと言った?

笑いをおさめた司書さんは口を開く。


「井上さんは大野くんのことを『おおのしょう』って呼んでいるんだなあと思って」


あっ。いつも心の中でだけ呼んでいた『迷惑少年おおのしょう』という呼び名をうっかり口にしてしまった。


「大野くんにはまだ接触していない。彼は、日本に戻りたいという気持ちが強いようだから、日本に戻る方法を見つけてから話をしようと思ってるんだ。期待させて、失望させたら自暴自棄になってしまうかもしれないし」


刑事さんが私に言った。

えっ。じゃあ、転生者二人のことを知らない『おおのしょう』は、唯一判明してる転生者の私に、これからも、しつこく話しかけて来るってこと……?


「私たちがこの世界に来たスキルは、元に戻るためには使えないのよ」


司書さんの言葉に、私は『おおのしょう』のことを考えるのをやめた。

今考えても仕方のないことだよね。最悪『おおのしょう』が私に絡んできたら、転生者のこの二人のことを話そう。

司書さんも刑事さんも大人だから、きっと『おおのしょう』をなんとかしてくれる。


「僕……というか『ヘレン・ミレン』が使ったスキルの説明をするね」


真剣な顔で言う刑事さんに、私は居住まいを正した。

人のスキルの内容を聞けるのってわくわくする……!!

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