第80話 リア・クラークは『重力半減』の『力』と『半』の『刺繍文字』を縫い終え、夢の中で黒猫と話す

クロエは私の部屋の掃除を終えて出て行き、私は黙々と『重力半減』の刺繍を頑張った。

そして『力』と『半』の『刺繍文字』が完成した!!

まだ『重』と『減』の刺繍が残っている。先は長い……。


「疲れた。ちょっと寝よう……」


クロエが『清潔』スキルをかけてくれたから、私はもう馬臭くない。

乗馬服を脱ぎ、部屋着に着替える。

ブーツを履きっぱなしだったから、足も疲れたのかも……。

私はいつも履いている靴に履き替えながら、部屋の中ではスリッパを履きたいと思った。

この世界ってスリッパあるのかな? 家に手紙を送る時に思いつけば、それも聞けたのになあ……。


「……寝よう」


とりあえず寝よう。疲れた。

私はベッドに歩み寄り、靴を脱いでベッドに寝転がる。

寝る前に『空間収納』スキルを覚えたいと延々言い続けた私は、気絶するように寝落ちした。


気がつくと、私は中学校の図書室にいた。

『井上愛子』の姿で、中学校の制服を着ているようだ。

前に見た夢と同じ。明晰夢だ。


「そんなに『空間収納』スキルが欲しいの? なんで?」


気がつくと私の足元に黒猫がお座りして、私を見上げて問いかけてきた。

前に夢に出てきた黒猫が、また出てきたのかな?

同じ猫か違う猫かは、猫に詳しくない私にはわからないけど。

黒猫の前にしゃがみ込み、私は黒猫の頭を撫でた。可愛い。


「ねえ、聞いてるんだけど」


黒猫は私の手を振り払うように首を振って、少し不機嫌そうに言った。

長い尻尾を一度床に打ち付け、機嫌が悪いアピールをしているみたい。

仕方ない。黒猫を撫でるのをやめて、会話をしよう。

私の夢なのに、黒猫に主導権を奪われてるようで、ちょっと悲しいと思いながら私は口を開いた。


「『空間収納』スキルが欲しいって言ったら、猫ちゃんがくれるの?」


「理由による」


私の願望が現れたせいなのか、黒猫は太っ腹なことを言った。

猫なのにスキルを与えられるなんて、さすが夢。

私の夢だから、私に主導権が戻ってきたのかも。私に都合が良くて素敵だ。

私は、張り切って黒猫にプレゼンを始めた。


「『空間収納』スキルはねえ、腐る物も腐らせず、ずーっと保存できるから食料を保存するのに役立つでしょ。いつでもどこでも出来立て熱々の料理を食べられたり、冷たい飲み物を取り出せたりするのは便利だよ」


「今、君、食べる物に困ってないじゃない」


「今からコツコツ、食料とか貯めておきたいんだ。日本でも、豊作で売ると捨て値になっちゃうから野菜を廃棄したっていうニュースを見たことがあるんだ。『空間収納』スキルがあれば、そういう野菜とか食料を保存しておけるからいいと思うの」


私の話を聞いた黒猫は、長い尻尾を振り、考え込んでいる。

私は、なんだか難しい顔をしている黒猫の頭を撫でて微笑み、口を開いた。


「神様にスキルを貰えるまで、頑張ってお願いしてみるよ。『刺繍文字』スキルとかくれたから、ケチじゃないと思うんだよね」


「君、僕を目の前にして、よくそんなこと言えるね。異世界の人間は図太いのかなあ」


黒猫がそう言ってため息を吐いた直後に、私の意識は暗転した。


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