第79話 リア・クラークは『重力半減』の刺繍を始め、新たな刺繍文字『無味無臭』を取得する
家へ出す手紙を書き終えた私は、途中になっていた『重力半減』の刺繍を始めた。
『力』の一文字を縫い終えているので、次は『半』を縫おう。
私は『半』の文字を縫いながら、乗馬の授業用……というか、厩舎の掃除のための、口を覆う布を用意しなければいけないことを思い出す。
「鼻と口を覆っても、馬臭さは感じるんだろうなー。馬臭い匂いを感じなくなるような刺繍文字があったらいいんだけど」
私がそう呟いた直後、身体がものすごく重くなった。
うわ。これ、スキルを覚えた時の感覚に似てる……っ。
似てるけど、気を失うほどじゃないから、今の方が倒れた時よりは、軽い感じ?
「スキルボードを確認しよう」
私は布を机の上に置き、針を針山に刺して、机の引き出しにしまっている『スキルケース』から『スキルボード』を取り出した。
『スキルボード』の内容は、特に変わっていないみたい。
『刺繍文字』のスキル内容が変わった……?
私は『刺繍文字』スキルのスキル内容を確認した。
『刺繍文字』スキルのスキル内容に、見慣れないワードが増えている。
「『無味無臭』って……たぶん言葉の通りだよね……」
私はそう呟き、スキルボードに記載された『無味無臭』をタップする。
『無味無臭』の説明文が表示された。
♦
『刺繍文字』スキル保有者が『無味無臭』刺繍をした布等で鼻や口を覆うと、匂いや味がしなくなる。
♦
『無味無臭』の説明文の内容は、私の予想通りだった。
「『無味無臭』って、また面倒くさそうな漢字……。布マスクを作って刺繍すれば、厩舎の掃除に便利かも」
布マスクの構造は簡単だから、たぶん、私でも作れる。
その前に『重力半減』の刺繍を完成させないと。でも今、めちゃくちゃ疲れたから寝たい。
寝たいけど、馬臭い身体でベッドに横になるのは嫌だ……。
「ベッドに横になって、気絶覚悟で『清潔』スキルを発動しようかな……」
だけど、馬臭い匂いを取り切れなかったら、私のベッドが汚染されてしまう。
今日は午後から、人が来るのに……。
私、なんで『乗馬』の授業を受けてしまったんだろう。後悔しても、もう遅い。
とりあえず、スキルボードをスキルケースにしまおう。
私はスキルボードをスキルケースに入れ、スキルケースを机の引き出しに入れた。
すごく疲れてるけど『重力半減』の刺繍を頑張ろう……。
私が頑張って『半』の文字を縫い終えたその時、部屋の扉をノックする音がした。
部屋に入ってきたのは私の世話係のクロエだ。
「リアさん、部屋に……。部屋、臭くないですか?」
部屋に入ってきたクロエは私に微笑んだ後、顔をしかめる。
「私『乗馬』の授業を受けたから馬臭いんです……。ごめんなさい……。髪には自分で『清潔』スキルをかけたんですけど、身体までは手が回らなくて……」
「『乗馬』の授業が終わったら、生徒たちに、教師が『清潔』スキルをかけるようにと要望を出しておきますね。可哀想に。臭い匂いを嗅ぎ続けるなんて、つらかったでしょう?」
クロエはそう言いながら、私の髪と身体に『清潔』スキルをかけてくれた。
馬臭さに触れすぎていて、今、自分が馬臭いのか馬臭くないのかすらわからない。おそろしい。
でも『清潔』スキルをかけてもらったんだから、きっと、私、今、全然臭くないはずだよね。
私は部屋の床に『清潔』スキルをかけているクロエに家への手紙を渡して、配送してもらえるように手配してほしいと頼んだ。
本当、私のネルシア学院での生活には、世話係のクロエのサポートが欠かせないと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます