第74話 リア・クラークは『乗馬』の授業を受けるために『乗馬服』と『乗馬靴』を選ぶ
『乗馬』の授業は厩舎前で行われるという。
私がドロシーに連れられ、厩舎前に行くと、ドロシーのように乗馬服にブーツ姿の生徒に交じって、私のように制服を着ている生徒もいた。
乗馬の教科担任と副担任が現れ、私のように制服を着ている初授業の生徒たちは、副担任に連れられて、乗馬服とブーツが並ぶ部屋に案内された。
部屋の中には試着室のようなスペースもある。
リアル日本の、洋服が置いてあるショップのような印象だ。
「ここにあるのは、中級クラスで受けられる授業『乗馬服制作』と『乗馬靴制作』で作られた物よ。中には『乗馬』の授業用に生徒自身が用意したけれど、身体に合わなくなったからと販売価格の半値で引き取ったものもあるわ」
副担任は、良く通る声でそう言った。
副担任の彼女は馬の尻尾のような茶色い髪を、後ろで一つに高く結い上げた溌剌とした女性教師だ。
私の中では、担任と副担任の名前がごちゃごちゃになってしまっている。
先生の名前はどうでもいい。それよりも、聞かなくちゃいけないことがある!!
私は右手をあげた。
「質問があるのね。どうぞ」
副担任が私の発言を許可した。
私は気合を入れて口を開く。
「はいっ。乗馬服とブーツの値段って、いくらでしょうか!?」
私は真剣な顔で尋ねた。
「それは、それぞれにつけられた値札を見てちょうだい。『乗馬服制作』で作られた乗馬服に関しては『優』の作品が金貨1枚で『良』の作品が銀貨8枚。『可』の作品は銀貨5枚で販売されていると思うわ。『乗馬靴制作』で作られた物に関しては『優』の作品が金貨3枚で『良』の作品は金貨1枚。『可』の作品は銀貨5枚で販売されているはずよ。ここで買った乗馬服と乗馬靴は、気に入らなくなったり身体に合わなくなった場合は、購入価格の半値で引き取るから遠慮なく言ってね。こちらで得た報酬は『乗馬服制作』と『乗馬靴制作』の授業で使う材料の費用と馬たちの飼料代になります」
副担任の説明を聞いた男子生徒が、おそるおそるという感じで挙手する。
「はい、どうぞ」
副担任が男子生徒の発言を許可した。
「あ、えっと、制服で『乗馬』の授業を受けたらいけないんですか? 男はズボンを履いているので乗馬服を買わなくてもいいと思うんですけど……」
「『乗馬』の授業を受けるには『乗馬服』と『乗馬靴』の所持が必須なの。ここで購入するのが嫌なら、自分で揃えてちょうだい。中級クラスの授業の『競馬訓練』『騎馬戦闘訓練』でも『乗馬服』と『乗馬靴』は使うはずよ」
「それじゃ、あの、僕は『乗馬』の授業を受けるのをやめます。失礼します……」
副担任に質問をした男子生徒は、そう言って会釈をし、部屋を出て行く。
副担任は出て行った生徒を見送ってため息を吐き、口を開いた。
「仕方ないわね。乗馬はお金が掛かると最初にわかってもらわないとね。でも『競馬』の大会には賞金が出るし、騎士団に所属するには馬術は必須なのよ。馬術系のスキルも有用だしね。他には授業を受けたくないと思った人はいる?」
私が乗馬の授業を受けようかどうしようか迷っていると、乗馬の授業の離脱者はいないということで話が進んでしまった。
仕方ない。とりあえず乗馬服とブーツを選んで『乗馬』の授業を受けてみよう……。
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