第69話 リア・クラークは生徒会室で『調停』に臨む

「リア・クラークさんですね。生徒会の召喚に応じていただき、ありがとうございます。僕は生徒会『調停』担当主任のノア・ワイリーです。隣にいるのは『調停』担当主任補佐のオスカー・アイザックです。リアさんが女子生徒なので、こちらも一人は女子生徒で対応するべきなのですが、どうしても人員の都合がつかず『なるべく早急に』という申立人の意向を優先することにしました。リアさんに、なるべく威圧感を与えないように気をつけますので、どうぞよろしくお願いします」


オレンジ色のような黄色のような髪と目をした綺麗な顔のノア・ワイリーがそう言うと、その隣に座っているいかつい顔のオスカー・アイザックがにこやかに微笑み、私に会釈した。

めちゃくちゃ低姿勢で感じがいいから、逆らえない。

私、基本的に流されるタイプなの……。

こうなったら、一秒でも早く終わらせて、生徒会室を出よう!!

私は!! 長いものに巻かれる、イエスウーマンになる!!


「あの、私、何をすればいいんでしょうか?」


低姿勢には低姿勢を。

私は綺麗な顔のノアに尋ねた。この人が『調停』担当主任って言ってたから、たぶんこっちの方が偉い人だ。


「申立人のレックス・スタウトくんの質問に答え、その答えが正しいことを証明するために、テーブルの上にある『真偽の月水晶』に触れて頂きます」


「えっと、嘘とか吐いたら……ネルシア学院を退学になったりしますか……?」


私は怖くなって尋ねる。

私の問いかけを聞いたノアは、苦笑して首を横に振った。


「退学にはならないですよ。ただリア・クラークさんが申立人に嘘を吐いたことが確定するだけです。嘘が確定するたびに、申立人が質問できる回数が増えます」


怖い……っ。

嘘吐かないようにしよう。気をつけよう。


「申立人のレックス・スタウトからの質問をどうぞ」


ノアが私を助けてくれた男子生徒に視線を向けて言う。

男子生徒……レックス・スタウトは、私を見つめて口を開いた。


「リア・クラークさん。あなたはネルシア学院に入学する前にローランド・カークに会ったことがありますか?」


「いいえ」


私は、はっきりと否定した。イエスウーマンの志はくじかれた。

『リア・クラーク』は『ローランド・カーク』に会ったことがない。

『井上愛子』が『ネルシア学院物語』という本を読んで『ローランド・カーク』をちらっと見たことがあるだけだ。

私の返答を聞いたノアが『真偽の月水晶』に視線を向けて口を開く。


「『真偽の月水晶』よ。生徒会『調停』担当主任、ノア・ワイリーが願い奉る。水晶に触れたリア・クラークの証言が正しければ白き光を発したまえ。……さあ、リアさん。『真偽の月水晶』に触れてください」


「はい……」


私はおそるおそる右手を伸ばして『真偽の月水晶』に触れた。

私、嘘吐いてないよ!! 白く光って!!

私の心の叫びに応えるように『真偽の月水晶』が白く光った。

……よかった。

私はほっとして安堵の吐息をつく。

申立人のレックスは、悔しそうな顔をした後、それでも私に頭を下げた。


「リア・クラークさん。申し立てにご協力いただき、ありがとうございました。以後、あなたを煩わせることはしないと誓います」


きちんと謝れる人は偉いと思う。

でも、召喚状というおそろしい物を受け取った私としては、彼をあっさり許していいのかわからず、沈黙した。


「では、これにて生徒会『調停』を終了します。お疲れさまでした。今後も、何か諍い等あった場合は生徒会の『調停』をご利用ください」


生徒会『調停』担当主任のノア・ワイリーがそう締めくくった。

ようやく女子寮に自室に帰れる。

私が立ち上がったその時、レックスは口を開いた。


「新たな申し立てをしても宜しいですか?」


「はい、どうぞ。オスカー。『調停』の申込用紙を用意してくれる?」


「はい」


オスカーがノアに肯いて立ち上がる。

私には関係ない話が始まったっぽいから、今のうちに生徒会を出よう。

私は会釈をしてさっさと生徒会室を出た。

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