第53話 リア・クラークは『一時刻』という時間制限をつけられた中で、ドロシーと二段ベッドとスキルの話をする

私とドロシーが、ベッドに並んで座り、お喋りをしていると、扉をノックする音がした。

私の返事を待たずに扉が開く。部屋の中に入ってきたのは、私の世話係のクロエだった。

クロエはベッドに並んで座っている私とドロシーを見て微笑み、口を開く。


「リアさんのお友達が来ていたのね。こんばんは」


「お邪魔してます」


ドロシーがベッドに座ったまま、クロエに頭を下げる。

クロエとドロシーが顔を合わせたのは、これが初めてだ。


「クロエさん。私が仲良くしているドロシーです。ドロシー。こちらは私の世話係のクロエさんだよ」


私は、クロエとドロシーにお互いを紹介した。

クロエとドロシーがそれぞれに挨拶をした後に、クロエが口を開く。


「友人同士の語らいを邪魔してしまってごめんなさい。でもあと一時刻したら解散よ。子どもはたくさん寝ないと、元気に大きくなれないですからね」


「はい」


「わかりました」


私とドロシーは、クロエの言葉に素直に肯く。


「一時刻後に、様子を見に来るわね。それまで楽しんで」


クロエは微笑んで言って、部屋を出て行った。

クロエが出て行き、閉まった扉を見つめてドロシーが口を開く。


「リアは世話係の人も当たりだね。あたしの部屋の世話係もいい人だけど、母さんより年上みたいだから、友達のようには話せない。あー。あたしもリアの部屋で暮らしたいな。このベッドを二段ベッドにすれば、二人で寝れるよ」


「でもこの部屋の大きさだと、机を二つは置けないよ」


「あたしの分の机はいらない。あたし、勉強好きじゃないし」


「今はそうかもしれないけど、もっと大きくなったら、勉強が好きになるかもしれないよ」


私は日本で生きている時は、勉強が好きではなかった。

でも今、ネルシア学院で受ける授業は楽しい。


『リア・クラーク』になった私にはクラーク商会を継ぐという目標があるし、スキル取得やスキルの使用にわくわくしている。

日本人の『井上愛子』には特別な才能なんて何も無かったけど、今の私には『スキルボード』がある。

今、取得しようと頑張っている、私の理想の『空間収納』スキルが『スキルボード』に刻まれる日が楽しみだ。


私の言葉を聞いたドロシーが、部屋の天井を見上げてため息を吐く。


「あたしが勉強を好きになる日が来るとは思えない。それに、二段ベッドの下の段が好きになる日も来ないわ」


「ドロシーは二段ベッドの下の段を使ってるの?」


「そう。同じ部屋を使ってるポーリーン・ベッツに、じゃんけんで負けたの。あたしにじゃんけんで勝った直後、ポーリーンはなんて言ったと思う?」


「なんて言ったの?」


「『あなた、太ってるから二段ベッドの下の段でよかったわよ』って!! ポーリーンは自分が痩せているのが自慢なのよ。枯れ枝のような足なんて、全然素敵じゃないのに」


私はドロシーになんて言ったらいいのかわからずに、言葉に詰まる。

二段ベッドの上の段に、子ども相撲の優勝者みたいな体格の子が乗っかったら、その下のベッドで寝るのは、ものすごく怖いような気がする。

私がくだらないことを考えているうちに、ドロシーは自分で気持ちを切り替えたようだ。


「四人部屋は、本当に、一人になる時間が無いの。村で家族と暮らしてた時も、一人になる時間なんて無かったけど、でも生まれた時から一緒に暮らしてる家族と、入学式の時に会ったばかりの子たちだと、気疲れの度合いが全然違うの。リアはこの気持ち、わかる?」


「わかる。ねえ、二段ベッドにカーテンをつけたらどうかな?」


「カーテン? 窓につけるカーテンのこと?」


「そう。二段ベッドの下の段なら、二段ベッドの上の段の手すりに結んで、カーテンを垂らせるんじゃない? それでカーテンを閉め切れば、ベッドの中はドロシーだけの空間になるよ。暗ければ、ランプを灯すか『明かり』のスキルを取ればいいと思う」


「リア、頭いい!! あたし、実は『明かり』のスキル持ってるんだ。部屋のランプを使うとお金がかかるって世話係に教えてもらった日の夜に、あたし『ランプを使わずに済みますように』って願ったの。そうしたら次の日に『スキルボード』に『明かり』っていうスキルがあったのよ」


「そうなんだ。私は暗いところでもよく見える『夜目』っていうスキルを取ったよ。ランプを使うとお金がかかるのが嫌だって思ったの、同じだね」


私とドロシーは顔を見合わせて笑い合う。

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