第54話 リア・クラークはドロシーと別れ、世話係のクロエから『ヘレン・ミレン子爵令嬢』の手紙を受け取る

部屋の中がゆっくりと暗くなり、ドロシーが『明かり』スキルを発動させて、部屋を明るくしてくれる。

明かりは暖色系の光で、雰囲気のある間接照明のようだ。


私とドロシーがお喋りをしていると、扉をノックする音がした。

扉が開き、私の世話係のクロエが現れ、私とドロシーは時計を見た。

楽しくお喋りをしているうちに一時刻が過ぎたようだ。

明日、一緒に二段ベッドに吊るすカーテンの布地を購買に見に行く約束をして、私とドロシーは手を振って別れた。


ドロシーが出て行ったので『明かり』スキルの恩恵が受けられない。部屋が暗くなってしまった。

私は仕方なくベッドの側にあるランプの明かりをつける。

私一人だけなら『夜目』スキルを発動させればいいけど、クロエと一緒だから明かりは必要だ。……ランプを使うのがもったいないとか、クロエには言えない。

私、クロエから裕福だと思われているみたいだし、実際、私の家は裕福なようだし。


女子寮の廊下は、暗くなると、世話係の手によって、壁に掛けられているランプの明かりが灯されるので、明るい。廊下の明かりの『充填』は学院負担で行われるということだ。

なんで生徒の部屋のランプは、生徒の自己負担なんだろう。微妙にケチなシステムだ。


「カーテンを買うんですか? 購買に、そんなに大きな生地、売っていたかしら」


私とドロシーの会話を聞いていたクロエが、首を傾げて言う。


「とりあえず行ってみます。購買に布地が無かったら、うちに手紙を書いて、布のことをいろいろ聞いてみます」


『リア・クラーク』の家は商会を営んでいる。

近況報告も兼ねて、手紙を書いてみよう。

手紙は、単位を貰っている『ネルシア初級語』だけで書いた方がいいかな。

『ネルシア初級語』はカタカナだから、カタカナだけで書いた手紙になって、ものすごく読みづらいとは思うんだけど。


「リアさん。髪と身体に『清潔』スキルをかけましょうね」


「その前に、クロエさんのお友達の話を聞かせてもらってもいいですか?」


「そうね。わたしもその話をしたかったの。リアさんを訪ねたのはわたしの友人だったわ。彼女はヘレン・ミレン子爵令嬢よ。リアさんに相談したいことがあったんですって。実家で使っている商会が彼女の婚約者と懇意にしている商会だそうで、もう手を切りたいという話だったわ。リアさんが『クラーク商会の一人娘』ということだけは知っていて、まだ幼いことは知らなかったみたいなの」


クロエは友人の『ヘレン・ミレン子爵令嬢』の話を全面的に信じているようだ。

私は、クロエが情報を漏らしていなければ『ヘレン・ミレン子爵令嬢』が私の部屋を突き止めて訪ねてきたことは怪しい話だと思うんだけど。


『ヘレン・ミレン子爵令嬢』はおそらく転生者の一人なので、会って話をしてみよう。

逃げ回って、それで済むとは思えない。

迷惑な『おおのしょう』に付きまとわれるのも嫌だから、そのことも相談できたらすごく嬉しい。


クロエは、エプロンのポケットから手紙を取り出して口を開いた。


「わたし、ヘレンから手紙を預かってきたの。机の上に置いておく?」


「今、読みます。その前に髪と身体に『清潔』スキルをかけてもらっていいですか?」


「わかったわ」


クロエは私の髪と身体に『清潔』スキルをかけ、私に手紙を渡し、早く休むようにと言って、部屋を出て行った。

クロエが部屋を出て行った後、私はランプの明かりを消し『夜目』スキルを発動させて、クロエから受け取った『ヘレン・ミレン子爵令嬢』からの手紙に目を通す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る