第52話 リア・クラークは寮の自室でドロシーとお喋りをする
私たちが食事を終える頃には、食堂にはテーブルが空くのを待っている生徒たちが出始めた。
食事が終わった後にテーブルを占拠してお喋りをしている状況ではなくなってしまったので、私たちは空になった食器を乗せたトレイを持って席を立つ。
食器を返却して食堂を出た私たちは、手を振って別れた。
十人未満とはいえ、それだけの人数で喋り続けることができる場が、食堂しか無かったからだ。
私とドロシーは、私の部屋でお喋りをしようということになり、二人で女子寮の一階の角部屋の105号室に向かう。
「そういえば、あの子たちとちゃんと自己紹介しなかったね。名前、知らない子もいるよ」
私が部屋の鍵を開けていると、ドロシーが言った。
「同じ授業を受けることがあるかもしれないし、また会ったら名前を聞けばいいんじゃない?」
私はそう言いながら鎖に通した鍵を首にかけて、扉を開けた。
ドロシーは私の部屋に入って、伸びをする。
「リアの部屋は一人部屋だから、いいよねっ。あたしの部屋は四人部屋だから友達も呼べないよ」
ドロシーはそう言って、私のベッドに座った。
私は自分の口の中に『清潔』スキルをかけて、ドロシーに視線を向ける。
「ドロシーにも、口の中『清潔』スキルをかけようか?」
「大丈夫。自分の部屋に戻ったら、お手洗いに行って歯磨きするから」
「ドロシーは『清潔』スキルを取らないの?」
「あたしは今のところ『清潔』スキルに興味無いかな。『清潔』スキルをかけてもらいたい時は、世話係に頼めばいいし。本当、ネルシア学院の寮生活って、村の暮らしより楽だと思う」
「村の暮らしって大変だったの?」
私はドロシーの隣に座って問いかける。
『井上愛子』としての、日本での暮らしは特に大変だったことはなく、通学して勉強するのが大変だった。
あと、人間関係。すごく大変とか虐められたとかではないけど、特別に仲良しな友達ができなかったのが、寂しかったような気がする。
『リア・クラーク』として暮らす時間が長くなればなるほど『井上愛子』としての記憶が遠くなる。
「村での暮らしはねえ、水汲みが大変だった。繕い物も面倒くさくて嫌だったなあ。お兄ちゃんや弟は繕い物をしなくていいのに、あたしは女の子だからって、お母さんから繕い物を押し付けられてさ」
「だからドロシーは『裁縫』の授業、合格するのが早かったんだね」
「リアはまだ小さいし、手も小さいんだから裁縫がうまくできなくても仕方ないよ。のんびりやればいいよ。期限は無いんだし。あたしも『ネルシア中級語』をのんびりと頑張るよ」
私とドロシーは顔を見合わせて笑う。
私にもドロシーにも、時間がたっぷりある。それがとてもわくわくして、嬉しいと思った。
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