第48話 リア・クラークは、部屋を訪ねてきたドロシーと一緒に食堂に向かう

「クロエさんのお知り合いの方なら、私ではなくて、クロエさんを訪ねてきたのかしら?」


私はクロエを見つめて言った。


部屋を訪ねてきた二人は『転生者』と言っていたので、絶対に私目当てに部屋に来たのだと思う。

クロエの知り合いに興味津々な態度だと、警戒されそうだから『紺色の髪と目の女子生徒』はクロエに用事があったのかも……という形で話を聞き出そう。

クロエは少し考えて、口を開く。


「彼女はわたしの部屋を知っているから、用事があったらわたしの部屋を訪ねると思うんだけれど……。リアさんに何の用事があったのか気になるし、わたしに用事があるのなら用件を聞きたいから、今から彼女に会いに行ってくるわ」


クロエはそう言って、私の部屋を出て行ってしまった。

……話を聞きそびれた。『紺色の髪と目の女子生徒』の名前すらわからなかった……。

私はため息を吐いて、ベッドに寝転がる。


転生者が、三人。

私は転生者たちから逃げて、そ知らぬふりで、学生生活を送れる……?


「話、聞いておけばよかったかなあ……」


部屋を訪ねてきた二人は『おおのしょう』よりは、まだましだった気がする。


「それか、私もクロエと一緒に行けばよかったかも」


私がそう呟いた直後、また、扉をノックする音がした。

もしかしたら転生者と名乗った二人が、また来たのかもしれない。

私は、転生者と名乗った二人と話す覚悟を決め、扉に向かう。


緊張しながら扉を開けると、そこにいたのはドロシーだった。

転生者と名乗った二人じゃなかった……。


「リア、大事件だよ!!」


制服姿のドロシーは、小さな丸い目を輝かせて言う。

ドロシーが言う『大事件』ってなんだろう?

私は首を傾げて口を開いた。


「何があったの? 『ネルシア中級語』の単位取れたの?」


「それは、まだ……。『ネルシア中級語』を覚えると『ネルシア初級語』を忘れちゃって、評価は『ダメ』ばっかりだよ」


『ネルシア初級語』は日本語のカタカナと同じで『ネルシア中級語』は日本語のひらがなと同じだ。

私はひらがなを読めるし書けるので『ネルシア中級語』は急いで単位を取らなくてもいいかなあと思っている。

だから、興味があった『刺繍』の授業を受けてみたんだけど、ここまで『刺繍』の授業の単位が取れないとは思わなかった……。


ドロシーの愚痴は止まらない。


「『ネルシア中級語』だけで文章を書くのは、できるようになってきたんだけど『ネルシア初級語』が混じると間違えちゃうんだよ。でも今は、その話はいいの!! 大事件っていうのはね、中庭にいた生徒の誰かが、さっき、雷に打たれたんだって……!!」


木の下に居たり、腕時計をしていると雷に打たれることがあるという話は、聞いたことがある。

でも、避雷針があれば防げるはずだ。学校や高層マンションには避雷針がある気がするけど……。

私はそう思いながら口を開いた。


「ネルシア学院って、避雷針とか無いのかなあ。雷に打たれた人って、生きてるんだよね?」


「ひらいしんっていうのが何かはわからないけど、神様が怒って雷を落としたんだから、大変なことになってるんじゃないかな」


ドロシーの言葉を聞いて、私は首を傾げた。


日本でも、雷は『神様の怒り』とか『神鳴り』と言われていた時代や地域があったみたいだけど、この世界の雷は神様が怒った時に落とすものなの?


スキルボードに『知識と探求の神バァン』と刻まれている以上、この世界に神はいるのだと思う。

神様は、転生とスキル付与にだけ関係していると思ってたけど、そういうわけじゃないっぽい……?


「今、食堂では雷に打たれた生徒の話で盛り上がってるよ。リアも食堂に行こうよ。ねっ」


ドロシーに誘われて、私は肯く。

そして学生証を入れた手提げ鞄を持ち、部屋の鍵を閉めて、ドロシーと食堂に向かった。

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