第47話 リア・クラークは訪ねてきた転生者二人を拒絶し、ベッドで布団に入って丸まる

「リア・クラークさん。話したいことがあるので、部屋の中に入れて頂けますか?」


「井上愛子さん。僕たちは、あなたと同じ『転生者』です。警戒しないでください」


紺色の髪と目の女子生徒と、筋肉質ですらりとした身体つきの女子生徒がそれぞれに言う。


「話すことは無いです!! さよなら!!」


私は勢いよくそう言って、扉を閉め、部屋の中から鍵を掛けた。

そしてベッドに駆け寄り、布団をかぶって丸くなる。

私と同じ、転生者!!

あの迷惑少年『おおのしょう』的存在が、二人も増えるなんて!!


私はこの世界で『リア・クラーク』として生きていくと決めている。

だから、転生者と接触するつもりはない。

せっかくネルシア学院で、楽しく充実した学生生活を送ることができて、仲の良い友達だっているのに。もう、日本にいた時のことは、過去の記憶だと割り切りたい。


『井上愛子』として日本で生きていた頃は、小学校も、中学校も、ただ決められた授業を受けさせられるだけで、義務感で勉強していた。

中学校で勉強していた動機は、高校受験があるからだ。

勉強が楽しいわけじゃない。勉強したことが、将来、何の役に立つかなんてわからない。

やりたいことも、夢もない。


読書は好きだったけど、それは、ただ、読書より好きなことや楽しいことが無かっただけだ。

今は、下手だけど『刺繍』が楽しい。『刺繍』の授業では『可』すら取れないけど、でも、頑張って練習をして『優』を取りたいという目標がある。

『空間収納』スキルも取得したい。自分の理想通りの『空間収納』スキルを得られるように、毎夜、寝る前に努力している。

自分のスキルが増えていくスキルボードを見て、わくわくしたい。


私は今、今日が楽しくて、明日が楽しみなのに。

だから、転生者とは関わりたくないのに……。


また、扉をノックする音がする。嫌だ。怖い。

あの二人は、どうして私を訪ねてきたの?

私はベッドから起き上がって、扉を見つめる。

もう、あの二人はいなくなっただろうか。


鍵が開く音がして、扉が開いた。

現れたのは、私の世話係のクロエだ。……あの二人を部屋の中に入れたりしないよね?

クロエはベッドの上で上半身を起こしている私を見て、心配そうに眉をひそめる。


「リアさん。やっぱり体調が悪い? 医務室に行きましょうか?」


「大丈夫です。あの、扉の前に、誰かいましたか……?」


「いいえ。誰もいませんでしたよ。何かあったの?」


「さっき、全然知らない人が部屋を訪ねてきたから、怖くて……。私、その人たちに自分の部屋番号を教えたりしていないのに」


「そうなの? リアさんと同じ授業を受けた人なのかしら? でも、部屋の場所を教えていない生徒が訪ねてくるなんて、変よね」


「二人とも、見たことが無い顔だったと思います」


紺色の髪と目の女子生徒の風貌は、なんとなく見覚えがある気もするが、思い出せない。

クロエは表情を曇らせて口を開いた。


「わたしが知る限り、女子寮で暴力的なトラブルが起きたことは無いんだけど。男子寮は結構あるみたいだけどね。暴力沙汰」


「そうなんですか?」


「そうなのよ。暴力を振るった加害者側だと認定されたら、最悪、ネルシア学院を退学しなければいけなくなるかもしれないのにね」


「私を訪ねてきた人たちは、暴力的な感じはなかったですけど……」


転生者は、たぶん『井上愛子』と同じ日本人だと思うので、暴力を振るうことはないと信じたい。


「訪ねてきた人は、名乗らなかったの?」


「はい。名乗られる前に、怖くて扉を閉めたので……」


「そうだったの。訪ねてきた人の、外見の特徴は覚えている?」


「一人は紺色の髪と目の女子生徒で、もう一人は、筋肉質ですらりとした身体つきの女子生徒でした。二人とも、私より年上だと思います」


「一人は紺色の髪と目の女子生徒だったの? わたし、その子のこと知っているかも」


転生者の一人は、クロエの知り合いかもしれない……?

私は、クロエから詳しい話を聞くことにした。

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