第46話 リア・クラークは女子寮の自室のベッドでまどろみ、扉をノックする音を聞いて目覚め、見知らぬ二人の女子生徒と対面する

おそろしい轟音が一度だけ聞こえたその後は、特に大きな音がするわけでもなく。

女子寮の廊下でしゃがみ込んでいた私は、拍子抜けしたような気持ちで立ち上がる。


「あーあ。カゴ、ひっくり返しちゃった」


クロエは轟音に驚いてシーツを入れたカゴを放り投げてしまったようだ。気持ちはわかる。


「もう一回『清潔』スキルをかけ直さなくちゃ。お日様の匂いがした方が気持ちいいから、シーツを日に当てていたのが台無し」


クロエは愚痴をこぼしながら、床に散らばったシーツをカゴに入れていく。

私もシーツの回収を手伝った。

廊下の床に散らばったシーツを全てカゴに入れ終え、クロエは私に視線を向けた。


「リアさん。手伝ってくれてありがとう。具合はもう大丈夫?」


「あ、はい。平気みたいです」


轟音が響き渡る直前に感じた得体の知れない動悸は、今は収まっている。


「ネルシア学院での生活の疲れが出たのかもしれないから、無理しないで休んでね」


「わかりました。気をつけます」


私はクロエの言葉に素直に肯く。

私の体調を気遣ってくれる世話係のクロエの存在は、とてもありがたい。

この世界にはスキルが存在するので、病気や怪我をしてもすぐに治りそうなイメージがあるけれど、でも、無理をしない方がいい。


「じゃあ、わたしは行くね」


クロエはシーツを入れたカゴを持ち、立ち去る。

私は自室に戻り鍵を掛け、ベッドに横になった。

ネルシア学院の制服から、私服に着替えているので皺になっても大丈夫だ。

制服が皺になっても、クロエに『清潔』スキルで綺麗にしてもらえるのだけれど。


私の『清潔』スキルは習熟度的なものが足りないようで、自分の口の中を綺麗にしたり、手を綺麗にすると相変わらずとても疲れる。

……なんだか眠くなってきた。

『刺繍』に真剣に取り組み過ぎて、疲れていたのかも……。

私はそんなことを考えながら目を閉じた。


……扉をノックする音がする。

眠い。目を開けられない。

扉に鍵を掛けているけれど、クロエは合い鍵を持っているはず。

私はノックの音をやり過ごした。だって……眠い。今は動きたくない。


時間を置いて、また、扉をノックする音がする。

扉をノックしているのは、クロエじゃなくて……別の人……?

クロエじゃないなら、ドロシーだろうか。私には、部屋の場所を教えた女の子の友達はドロシーしかいない。

『刺繍』の授業では、刺繍の技術を学ぶのに必死で、友達を作るどころではなかった。それに『刺繍』の授業にやってきた新しい生徒は、皆、私より先に単位を取って去ってしまう……。


ノックの音は続いている。

起きなくちゃ。何か、大事な用事があるのかもしれないし……。


私は眠気をこらえて必死に身体を起こし、扉へ向かう。

そして鍵を開け、扉を開けた。

扉の前に立っていたのは、見知らぬ二人の女子生徒だ。


転生してネルシア学院で過ごした私の記憶には無い顔だ。紺色の髪と目の女子生徒の風貌は、なんとなく見覚えがある気もするが、思い出せない。

どなたですか……?

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