第44話 ロザリンド・ロレイン・ネルシアは『神罰』を受け、身体中を蝕む痛みに苦しむ

身体中が痛い。何が起きたの……?


わたくしは、いつものように愛するレニーと、中庭の薔薇園の片隅で語らっていた。

わたくしを心から心配してくれる友人のウルスラが、いつものように、人が来ないように見張りに立ってくれていた。


いつも通りの、愛の語らいの時間だった。

18歳になったわたくしはネルシア学院を卒業して、王女としてのつとめを果たすために神殿に入らなければならず、愛するレニーと過ごす時間は残り僅かとなっていた。

レニーには、親が決めた婚約者がいるけれど、愛しているのはわたくしだけだと言ってくれていて、それが『神の花嫁』として神殿に入るわたくしの心の支えになっている。


ああ、身体中が痛い。

突然、轟音がした直後に、激痛がわたくしを襲った。


誰かの悲鳴が微かに聞こえる。

男の人の悲鳴だろうか。……ああ、身体中が痛い。


わたくしは身じろぎをして、薄く目を開けた。

……音が、聞こえづらい。視界に、色が無い。

レニーとウルスラは、どこにいるの……?


誰かの声がする。くぐもっていて、話の内容がわからない。

この身体の痛みをおさめるために『癒しの光』のスキルを発動させようと、必死に口を動かす。


「じょう……けん、してい……。『わたくしの身体の痛みを……取り去って』スキル発動『癒しの光』」


自分の声が聞き取れない。でも、スキルは発動したはずだ。

『癒しの光』のスキルを発動させたわたくしは、痛みがおさまるのを待った。

だが、一向に痛みがおさまる気配が無い。

視界に色は戻らない。

でも、音は少しずつ聞き取れるようになってきた……。


「王女殿下に強く迫られて、断り切れなかったんだ……っ!!」


この声は、レニー?

レニーは、今、わたくしの側にいるの?

側にいるのなら、なぜ、わたくしを助け起こしてくれないの……?


「私を目の前にして、それを言うの? 散々、くだらない逢引の見張りをさせていたくせに」


蔑むような冷たい声。

それはウルスラの声に似ている。でも、ウルスラ本人の声ではないわ。絶対に。

たった一人の大切な友人であるウルスラは、わたくしの『真実の愛』を守るために、献身的に尽くしてくれている。

今の声のような、ひどいことを、ウルスラが言うはずがない。


「今こそ『真実の愛』を貫く時でしょう? もう、この女は王女なんかじゃない。神殿に入る義務からも解放されたはずよ」


「ええ、その通りだわ。ロザリンドは、王家の色を失った、ただの罪人」


ウルスラに似た声に、別の少女の声が重なる。


「見たいものは見られたわ。もう、興味が失せた。ウルスラ、女子寮のわたくしの部屋で話をしましょう」


「ええ、そうね。私たちには、会わなければいけない人たちもいて、やらなければいけないことがある」


二人分の、足音が遠ざかる。


「待ってくれ、ヘレン!! アンドレス侯爵令嬢……!!」


悲鳴のようなレニーの声を聞いた直後、わたくしの意識は途切れた。

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