第43話 ウルスラ・アンドレスはヘレン・ミレンと出会い『奇跡発動』スキルについて話す

「大丈夫ですか……っ!?」


突然轟いた轟音に怯え、地面に倒れ伏していた私は、紺色の髪と目の少女に助け起こされた。

優しげな目と視線が合う。見覚えがある顔だ。

転生前に、記憶に刻み込んだ四つの顔のひとつ。


「あなたは『ヘレン・ミレン』ですか……?」


私が問いかけると、彼女は紺色の目を見張る。


「わたくしをご存知なの? 彼の婚約者だから……?」


今の私は『ウルスラ・アンドレス』だ。

王女の逢引相手の婚約者である『ヘレン・ミレン』の顔は何度か見たことがあり、彼女も王女に連れまわされている私の顔を知っている。でも、私たちは、今まで直接言葉を交わしたことは無かった。


「それもあるけど、司書室で、会ったから」


日本での記憶を喚起する言葉を口にすると彼女は長いため息を吐いた。


「ヨシさんじゃないよね。っていうことは、司書さん?」


『彼』の同僚の刑事の愛称が『彼女』の口からこぼれる。

ああ、よかった。私以外の転生者に会えた。


「司書さんが、最後の転生者だね。立てる?」


「はい」


私はヘレンに肯き、足に力を入れて立ち上がった。

そして、立ち上がった私はヘレンに視線を向け、口を開く。


「ヘレンさんは婚約者に会いに来たんですか? それとも王女に?」


「王女です。スキルの発現を確認しに来ました」


「『奇跡発動』スキルですか?」


私の言葉を聞いたヘレンは驚いた顔をして二度瞬き、苦笑した。


「『ヘレン・ミレン』の事情、知ってる感じ?」


「はい。『ネルシア学院物語』の本の中に書かれていることだけですけど。『ヘレン・ミレン』が目覚めた直後の思考や言動は、本の中に描写されていました。そこで『奇跡発動』スキルのことも知りました」


私がそう言った直後、男の悲鳴が聞こえた。

私とヘレンは視線を合わせて肯き、悲鳴が聞こえた方に、早足で歩き出す。


悲鳴をあげていたのはヘレン・ミレンの婚約者でロザリンド・ロレイン・ネルシア王女の逢引相手のレニー・ウィルケンズ侯爵令息だった。

尻もちをつき、倒れ伏しているロザリンド王女から距離を取ろうとしている。


「『奇跡発動』スキル、発現したんだ。本当に」


ヘレンは倒れ伏しているロザリンド王女を見下ろして呟いた。

ロザリンド王女の長く美しかった銀色の髪は、今は、真っ白な色になっていた。

『神罰』が下され、ロザリンド王女は『王家の色』を失ったのだ……。


ロザリンド王女と『真実の愛』を育んでいたウィルケンズ侯爵令息は、倒れ伏す王女を助け起こすこともせず、ただ、彼女から距離を取ろうとしている。


「ロザリンド王女を助けないのですか? ウィルケンズ侯爵令息」


ヘレンがおそろしく冷たい声音で、不実な婚約者に話しかけた。

ウィルケンズ侯爵令息はヘレンに声を掛けられて初めて、私たちがここにいることに気づいたようだ。


「ヘレン……!!」


救われたような顔をしてヘレンの名を呼ぶウィルケンズ侯爵令息には、呆れ果てることしかできない。

この男が婚約者であるヘレン・ミレンに誠実であったなら、もしくは、婚約を解消して彼女を自由にさせていたなら、きっと、こんなことにはならなかっただろう。

ヘレンはウィルケンズ侯爵令息を見つめて眉をひそめ、口を開く。


「気安くわたくしの名前を呼ばないでください。ウィルケンズ侯爵令息。あなたには『真実の愛』を育んでおられるお相手がいるでしょう」


ヘレンはそう言って、倒れ伏している白髪の王女に視線を向けた。

倒れ伏していた王女が、身じろぎをする。

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