第32話 リア・クラークとローランド・カークは銀色の髪に紫色の目の美少年に遭遇する

「失礼。女子生徒が嫌がっているようだが」


手を掴まれた私と手を掴んでいる迷惑少年に、澄んだソプラノの声が掛けられた。

仲裁しようとしてくれる人がいる……っ!?

私は縋るように声の主を見た。そして、その生徒を見て目を見張る。

めちゃくちゃ美少年……!!

『リア・クラーク』より少し年上だろうか。

銀色の髪に紫色の目。

アメジストの瞳という言葉が私の脳裏を過ぎる。

小説で何度も読んだことがあるフレーズだけど、まさにそんな感じ。

日本で暮らす井上愛子だった時、リアルではアメジストってネットの画像でしか見たことなかったけど……。

迷惑少年の顔立ちも整っているけど、声を掛けてくれた少年の美貌は半端無い。

この世界の美形率って高いの!?

でも昨日友達になった三人は普通の容姿だったよね……。


「……失礼いたしました」


迷惑少年が掴んでいた私の手を離して、美形少年に向かって一礼する。

えっ? なにこの態度? この美形少年って偉い人?

『リア・クラーク』の記憶を探っても、この美形少年の顔は出てこない。


「畏まらなくて良い。学院内では生徒は皆、平等だ」


美形少年が素敵スマイルを浮かべて言う。

それ身分が高い人が言うセリフじゃない!?

今さらだけど、私も頭を下げた方が良いのか迷っていると、チャイムの音がした。


「ローランド様……!!」


廊下の向こう側から、昨日迷惑少年と一緒にいた少年が走ってくる。

私は銀色の髪に紫色の目をした美少年に感謝を込めて素早く一礼し、逃げるように『Ⅰー1 基礎クラス』の教室に入った。


私が『Ⅰー1 基礎クラス』の教室に入ると、昨日友達になった三人と、それ以外の大量の女子生徒に取り囲まれた。

女子生徒は子どもから大人まで様々だ。

私は突然、大勢に取り囲まれて立ち竦む。


「リア、大丈夫だったか!?」


「先生が来たら、あの迷惑な人を追い払ってもらおうと思って教室から様子を見てたの。すぐに助けられなくてごめんね」


昨日友達になったネルシア王国の東のはずれにあるネル村のダレルとドロシーがそれぞれに言う。


「ダレルがあの迷惑な奴をぶん殴るっていうのを止めてたら助けに行けなくて、リア、本当にごめん」


背が高い少年、ライナスが申し訳なさそうに言う。

ダレルを止めてくれた功績は大きいよ。ライナス。


「そんなことより、王子様とどんな話をしてたのっ!?」


「もしかして友達になったとか!?」


ネル村出身の三人を押しのけて前に出てきた女子生徒数人が、勢いよく尋ねてきた。

王子様? 今、王子様って言った?

私が答えに窮していると『Ⅰー1 基礎クラス』の担任であるホーランド先生がだるそうな足取りで教室に入ってきた。

私を取り囲んでいた生徒たちは素早く自分の席に戻り、タイミングを逃した私だけが一人、立ち尽くす結果になる。


「そこの君、早く席に着きなさい」


そして私だけ、ホーランド先生に注意された。

理不尽だ……。

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