第28話 リア・クラークは女子寮の一階の角部屋の105号室のベッドの上で目覚め『清潔』スキルを取得して喜ぶ

目覚めると、見慣れない天井が視界に映る。

……ここは、自分の部屋じゃない。

『リア・クラーク』の部屋でもなければ『井上愛子』の部屋でもない。

ネルシア学院女子寮の一階の角部屋の105号室の天井だ……。


「『清潔』スキル覚えたかな……っ」


私は昨夜、寝る前に『清潔』スキルを覚えようと試み、めちゃくちゃ身体が怠くなって気を失ったように眠ったことを思い出しながら言う。

今は、体調はすっかり回復していた。睡眠すごい。


私はベッドを下りて机の上に置いていた『スキルケース』から『スキルボード』を取り出した。

私は期待を込めて『スキルボード』を見た。

『清潔』スキルが増えてる……!!

今の、私の『スキルボード』の表示は、異世界の記憶 → 読書 → 清潔 となっている。

『清潔』スキルを覚えられた!! 嬉しい……!!


「でも憂鬱なこともあるんだよねえ……」


私はそう呟きながら、カーテンを開けて時計を見上げる。


現在の時刻は『6:32』くらいだろうか。

この世界の言い方だと『六時刻三十二分』だ。


昨日、ネルシア学院の入学式が終わった後に『Ⅰー1 基礎クラス』の教室で、私は転生仲間らしき少年に会った。

彼は私の転生前の『井上愛子』という名前を口にした……。

そして自分のことを『おおのしょう』だと言った。

『おおのしょう』という名前に聞き覚えが無い。

『井上愛子』には親しい男友達はいなかったはずだ。


「とりあえず着替えて、予習でもしよう」


世話係のクロエが現れるまで、少し時間がありそうだ。

私はパジャマを脱ぎ、制服に着替える。


制服に着替え終えた後、本棚に立てかけられていた『ネルシアショキュウガクシュウキョウホン』を取り出し、机に向かう。

『ネルシアショキュウガクシュウキョウホン』には『カタカナ』が書かれていた。


「『カタカナ』を覚えて読んで、書けるようになれば、それでいいの……?」


だったら、楽勝だ。

私『井上愛子』には日本の中学一年生の知識がある。

でも『カタカナ』の勉強なんて懐かしい。

コロナ禍でノートパソコンで授業を受けるようになってから、ノートに直接文字を書く機会も減っていたから、引き出しにしまっていたノートにカタカナを書くのも懐かしい。


『アイウエオ』

『カキクケコ』

『タチツテト』

『ナニヌネノ』

『ハヒフヘホ』


真っ白なノートに、私が書いたカタカナの文字が並ぶ。

そういえば『ハヒフヘホ』が口癖の、アニメの悪役がいたよね。

何もかも全部、懐かしい……。

私が日本への郷愁を感じていると、扉をノックする音がした。


「どうぞ」


入室許可を出した私の声、外に聞こえるかな?

扉が開いて、私の世話係のクロエが部屋に入って来る。

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