第27話 警察官の吉岡義人は後輩警察官の姿が突然消えたことに狂乱する
「『だいしょう』!! おい、どこ行った!? 返事しろ!!」
オレは司書が差し出した本のページの一部に触れた直後、司書室から消え去った部下の名前を叫ぶ。
「刑事さん。落ち着いてください。大声を出さないで」
「これが落ち着いていられるか!!」
「図書室にいる子たちに聞こえます」
「……っ」
オレは司書の言葉を聞いて口をつぐむ。
心臓の鼓動がうるさい。指先が冷たくて、呼吸が苦しい。
……今、目の前で『だいしょう』が消えた。
さっきまで一緒にいた、いつも一緒に警察署で働いている後輩の姿がどこにもない。
オレは心を落ち着けるために目を閉じ、深呼吸した。
少し、胸の鼓動が落ち着く。
オレは目を開け、強張った顔をしている司書の女を睨みつけて口を開いた。
「『だいしょう』は、オレの後輩警官はどこへ行った?」
「本の中にいると思います」
そう言って、司書の女は机の上にある『ネルシア学院物語』という本のページをめくる。
「やっぱり、彼は本の中にいます。新しいページが増えてる」
「ふざけるな……っ。手品のようなことをしたんだろう……っ?」
「手品じゃないですよ。私はマジックとか使えないですし、タネを探したいなら、司書室の中でも校内でも探してみてください。見つからないでしょうけど」
司書の女は表情に怒りを滲ませて言った。
「私、言いましたよね。生徒たちは『本の中』にいるって。人を守るための技術も訓練もしていない私が本の中に行くより、警察官のあなた方に本の中に行ってもらう方が生徒たちのためになると考えました。『主人公を選ぶと本の中に入る』というのは私の推論だったので、今、目の前で起きたことを信じたくない気持ちはあなたと同じです」
司書の女は本のページを目を落としてため息を吐いた。
「後輩刑事さんは『ヘレン・ミレン』として目覚めたようですよ。確認しますか?」
オレは頭の中が混乱したまま、司書の女から本を受け取った。
そして、文章を読んでいく。
やっぱり、悪ふざけとしか思えない。
『人間が本の中に入る』なんて有り得ない。
この本の中に『だいしょう』がいるなんて……。
そう思った時『あー。いつもゲームで『女主人公』を選んでるから女子キャラを選んだけどしくじった……』というセリフが目に飛び込んできた。
『だいしょう』はスマホゲームが好きで、休憩時間にはよく遊んでいた。
オレにもスマホゲームをすすめてきて、楽しそうに話をしていた。
『だいしょう』はいつもゲームで『女主人公』を選んでいた。
そのことは『だいしょう』と二度しか会っていない司書の女は知らないはずだ。
それに『明日は非番で、カノジョとデートの約束をしている』という一文。
それは『だいしょう』のカノジョや友達、オレたち警察の仲間内しか知らない情報のはずだ。
なんて、今、この本に書いてある……?
「あなたに選択していただきたいことがあります」
呆然と本のページを見つめるオレに、司書の女が言う。
「最後の一人の主人公、あなたと私、どちらが選びますか? 『本の中』に入るのは、あなたと私、どちらにしますか?」
司書の女の言うことは、何一つ理解できない!!
オレは叫び出したい気持ちをこらえて唇を噛みしめながら、本のページから司書の女に視線を移した。
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