第25話 警察官の有馬大翔は中学生二人とすれ違い、行方不明生徒の話を聞くために図書室を訪問する
僕の名前は有馬大翔。
大翔と書いて『はると』と読む。
今は、ありふれた名前だ。クラスメイトには何人も同じ読み、同じ漢字の男子生徒がいた。
先輩刑事のヨシさんは、僕のことを『だいしょう』と呼ぶ。
まあ、漢字だけ見ればそうも読めるので、特に反抗はしないで受け入れている。反抗するの面倒くさいし。
特に将来の夢もなく、体力には自信があったので親に『とりあえず警察官にでもなったら?』と雑にすすめられてその気になり、流されるままに警察官になった。
市民の安全を守ろうという熱い気持ちは少ししかないけれど、でも、勤務先の警察署の管轄内で中学生が二人も行方不明になったら、無関心ではいられない。
5月28日の夕方、僕は先輩刑事のヨシさんと、失踪した中学生ふたりが通っていた中学校を訪れていた。
中学生の家出案件はそれなりに多く、身代金の要求等がなければ大がかりな捜索はできない。
それでも、なんとか消えた生徒たちの行き先を突き止めようと、再度中学校に来たのだ。
防犯カメラの映像や、ドライブレコーダー等の映像を確認した限りでは、二人の生徒の姿はなく、中学校の校内で何らかのトラブルに巻き込まれたのではないかというのがヨシさんの見解だ。
校長室で校長先生と話をした後、失踪した生徒の一人の目撃情報がある図書室へと向かう。
「中学校、懐かしいですねえ」
僕は図書室に向かうために階段を上がりながら言う。
「オレは昔過ぎて懐かしいとかねえな」
「ヨシさん、まだ30代でしょ? 昔過ぎっていうほどですか?」
「15年前は昔だろう」
「あー。確かに」
手を繋いだ恋人同士っぽい生徒たちとすれ違い、カノジョの美玖に会いたくなる。
恋人同士っぽい生徒たちとすれ違ったら、また男女の組み合わせの生徒二人がやってきた。
最近の中学生はリア充多いようだ。
「ねえねえ、お巡りさんいるよ」
「見ればわかります」
生徒二人の会話が微笑ましい。
「こんにちは。まだ外は明るいけど、気をつけて帰ってね」
僕は生徒たちに視線を向けて言う。
「はいっ。気をつけます」
女子生徒が元気よく言った。
……行方不明になった生徒たちも早く見つけてやりたいな。
僕は生徒たちとすれ違いながらそう思った。
階段を上がり、図書室前に到着した。
今から、学校司書の女性に話を聞く予定になっている。
図書室の扉を開けると、本の匂いなのか、独特な香りが漂う。
中学生の時も高校生の時も、僕は、学校の図書室にも市内の図書館にも一回も行ったことがない生徒だった。
「刑事さん、お待ちしていました」
学校司書の女性が僕たちを出迎えてくれた。
交番勤務の僕たちは『刑事』ではないけれど、でも警察官を『刑事』と呼ぶ一般人は多い。
「司書室で話をしましょう。こちらへどうぞ」
学校司書の女性はそう言って、僕たちを先導して歩き出した。
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