第24話 兵頭さやかは司書室で『警察官たち』が図書室を訪れるという知らせを聞く
「大野くん、追い詰められた精神状態みたい……」
私は『リア・クラーク』の章に追加されたページを読み終えて呟き、ため息を吐いた。
放課後に『ネルシア学院物語』の本のページを開いたら、一時間目の授業中、司書室で読んだ内容にページが追加されていた。
行方不明になった井上さんと大野くんが、本の中の世界で邂逅したことにほっとしたのは束の間で、まるで対立関係になってしまったかのような展開に胃が痛い。
「物語は進んでいるみたいだけど、いつ『終わり』になるんだろう」
私以外には誰もいない司書室に、私の呟きだけが響く。
長いため息を吐いた直後、司書室の電話が鳴った。
校長室からの電話のようだ。
私は受話器を取った。
「はい、司書室。兵頭です」
「兵頭先生、校長の金ケ崎です。今、校長室に警察の方から連絡がありまして。行方不明の生徒たちの足取りをもう一度確認したいそうなのですが、図書室で行方不明になった大野くんを見たという図書委員がいるのですよね?」
「はい。私は該当の図書委員から話を聞いているので、警察の方にお話しできると思います」
「わかりました。警察の方が学校を訪問したら、校長室で対応した後に図書室に向かってもらいます。警察の方が図書室に向かったら、電話で連絡します」
「よろしくお願いします」
私はそう言った後、校長先生が受話器を置くまで待ってから、右手に持った受話器を置いた。
……警察官が、ここに来る。
私は読んでいた『ネルシア学院物語』の本のページをめくり『主人公を選んでください』というページを開いた。
モノクロの文字とグラフィックの登場人物が二人、カラーの文字とグラフィックの登場人物が二人いる。
……大野くんは、本の中で追い詰められている。
「警察の人と私が『選べば』登場人物全員が、きっとモノクロ表記になるはず……」
でも『本の中に入る』なんて怖い。
今の仕事が気に入っているから、失踪扱いになって、失職するかもしれないのも怖い。
自分以外の誰か二人が、本の中に入ってくれたら……。
そこまで考えて、慌てて首を横に振る。
すでに一人は絶対に巻き込もうと思っているのに、自分だけ逃れようとするなんて卑怯すぎる。
でも、本の中に入る前に、一人暮らしのアパートから実家に戻ろう。
それくらいはやってもいいわよね……?
私が『失踪状態になる』かもしれない状況に備えてやるべきことを自分の手帳にまとめていると、司書室の電話が鳴った。
校長室からの電話のようだ。
私は受話器を取った。
「はい、司書室。兵頭です」
「兵頭先生、校長の金ケ崎です。今、警察の方たちが校長室を出ました。図書室に向かうように言いましたので、お相手をどうぞよろしくお願いします」
「わかりました」
私はそう言った後、校長先生が受話器を置くまで待ってから、右手に持った受話器を置いた。
今、校長先生は『警察の方たち』と言った。
……警察官は、二人以上いる?
だったら、それなら、私が本の中に行かなくてもいい……?
警察官は警察学校で、様々な訓練をすると本で読んだり、ドラマで見たことがある。
私よりずっと、井上さんや大野くんの力になってくれるのではないだろうか。
私は千々に乱れる心を落ち着かせようと深呼吸して『警察官たち』の訪れを待つために司書室から図書室へと移動した。
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