第18話 ローランド・カークは自分の現状を受け入れられず、リア・クラークを探そうと決意する

意味がわからない。状況が理解できない。

俺は昼休み、図書室で『いのうえあいこ』が読んでいた本を広げて、読んで、それで。


気づいたら馬車に乗っていた。

隣には見覚えのない男。……俺には見覚えが無かったけれど、記憶にはある顔。

頭の中で二つの記憶が混在していて、俺は混乱した。


状況が飲み込めないままに石造りの門の前で馬車を下りることになり、そこで濃いグリーンのブレザーにグレーのズボンを履き、胸元に赤いネクタイをしている男子生徒に声を掛けらた。

それからは言われるがままに移動し、着替え、そして入学式があるという講堂に入り、椅子に座った。

俺は、今『ネルシア学院』の入学式が始まるのを待っている。


「ローランド様、大丈夫ですか?」


隣に座る男……俺を『ローランド様』と呼んだのは、焦げ茶色の髪と目をした精悍な顔立ちで『ローランド・カーク』の乳兄弟だ。

乳兄弟。そんな言葉、俺は聞いたことも無いのに理解している。

乳兄弟っていうのは『乳母の息子で兄弟のように育った幼なじみ』っていう意味合いだ。

俺は、そう理解している。


なんで、理解できるんだ……?

頭の中には二人分の記憶があって、馬車の窓ガラスに映った顔は『俺』じゃなかった。

黒髪でも黒い目でもなく、金髪で青い目……。


講堂に杖を手にした白髪の老人が現れた。

ファンタジー映画を見てるような気持ちで、俺はそれを見つめる。

白髪の老人が講堂のステージに上がった。


夢? これは夢なのか?

俺は夢を見ているのだろうか。

でも、妙な現実感がある。


俺は行方不明になった『いのうえあいこ』のことを考えた。

『いのうえあいこ』も、俺と同じような目に遭っている……?

『いのうえあいこ』も、図書室で『ネルシア王国』を読んで、それで……。


俺が見たページの内容を思い出せ。

何が書いてあった?

『主人公を選んでください』という文章があったページには複数の人物の記載があった。

『リア・クラーク』という名前とその登場人物の説明だけ、文字の色が薄く、登場人物のグラフィックもモノクロになっていた……。


俺が考え事をしている間に、講堂のステージに上がった白髪の老人は手にしている杖を振り上げて口を開いた。


「新入生の諸君。ネルシア学院へようこそ。私はネルシア学院の当代の学院長を任じられた、オズモンド・フィシャーである。これから、入学試験を突破し、見事、ネルシア学院の門をくぐった諸君らに『スキルボード』を与える。条件指定『講堂内にいるネルシア学院の新入生』魔法発動『スキルボード授与』!!」


ネルシア学院の学院長を任じられたというオズモンド・フィシャーが手にしている杖を振り上げると、杖の上部に埋め込まれた宝石がまばゆい光を放つ。

眩しい。だから、きっと、これは夢じゃない。

だって夢で眩しいなんて、変だろう?


光がおさまると、俺の膝の上には藍色の布張りの箱が置かれていた。

布張りの箱は『スキルケース』で箱に入っているのが『スキルボード』と説明を受ける。

その後、入学資格がない男が『スキルケース』が無いと大騒ぎして捕らえられる一幕があった。

俺は講堂の中を見回す。

『リア・クラーク』を探そう。

少女だということと名前しか覚えていないけれど、それでも。


俺は……大野翔は『リア・クラーク』を探して、見つけて、このわけのわからない状況を打開する。

俺には会いたい美少女がいて、家族がいて、友達もいて。

読みたい漫画も見たいアイドル動画もたくさんある。


なにより、頭の中に二人分の記憶があるというこの現状に吐き気がする。

大野翔が『ローランド・カーク』に浸食されそうで、怖い……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る