第14話 リア・クラークは入学生の席で入学式開始を待つ間に寝落ちし、左隣りに座った少女に揺り起こされる

クロエは私をネルシア学院の講堂に案内して、新入生が座る席を指し示し、口を開いた。


「入学式は十四時刻からよ。入学式が始まる前まではお喋りをしても構わないけれど、貴族や王族の方も入学されるから、態度には気をつけた方がいいわよ。王族の方は見ればわかるから、不敬を働くこともないでしょうけど。じゃあ、わたしは行くわね。入学式を楽しんで」


クロエは私にそう言って微笑み、講堂を出て行った。

王族の方は見ればわかるって、どういうこと?

額に痣があるとか?


私は、クロエから中途半端な情報を与えられてモヤりながら、新入生が座る席に座る。

早めに入学式に来ているのは、雰囲気的に平民っぽい。

髪が跳ねていたり、ツヤがなかったり、制服を着こなせていない感じがする。

年齢も性別も様々で、ネルシア学院というのは、本当に広く門戸が開かれている学院なんだなあと思う。

井上愛子は、本当に同年齢の子たちとしか学校に通わなかったから、なんだか少し圧倒される。

6歳といえば、日本でいえば小学一年生で、大人と一緒に学ぶなんて考えられない。


私は前から二列目の左から3番目にある椅子に座っていて、右隣りには髪に白い物がまじった女性が座っている。

彼女は、彼女の右隣りにいる同年代の女性と話をしている。

ブレザーやスカートのデザインはどの年代でも同じだが、スカートの丈は、年齢が上だとふくらはぎまでの長さになるようだ。


私は自分の隣の空いている席を見た。

この椅子に座るのはどんな人だろう?

世間話くらいはできるだろうか。

そう考えて、今、自分が6歳の『リア・クラーク』の姿だと思い出す。

中学一年生の井上愛子だったら、友好を深めるためのお喋りに付き合ってくれる人もいるかもしれないけれど、リアは美少女とはいえ6歳なので、大人は相手にしてくれないかもしれない。


今、空いている隣の席に座るのが、私……リアと同じくらいの年齢の子だったらいいな。

同年代でも、男の子とはうまく話せる気がしない。

リアの記憶では、リアは、同年代の女の子ともうまく話せてはいないのだけれど。


そんなことを考えたら眠くなってきた……。

私の身体は6歳で、お腹は満腹。ひとりでぼーっとしていて眠気をさます手段もない。

ここにスマホがあったら漫画を読んでいたのに……。

私の瞼は重くなり、目を閉じた。

眠くて、頭がグラグラと揺れ……。


「あなた、もうすぐ入学式が始まるわ。眠るのは不作法よ」


「ん……」


「起きて、起きてちょうだい」


身体を揺すられ、私は目を開けた。

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

私の身体を揺すっていたのは、私の左隣りに座っている紺色の髪と目の少女だった。


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