第13話 リア・クラークはクロエからわがままな王女殿下の話を聞き、その流れで恋バナマシンガントークを聞かされ続ける

お手洗いを出て私の105号室に戻り、私とクロエは、ベッドに並んで座った。

お手洗いに行く間、部屋の鍵は開けっ放しにしていたけれど、特に荒らされてもいないし誰かが部屋に入った様子もない。


「ネルシア学院って、盗みとかそういうことはあるの?」


「あるわよ」


私の問いかけにクロエはそう言った。

盗み、あるんだ。怖い。

怯える私を宥めるように微笑して、クロエは言葉を続ける。


「でも、犯罪被害者本人や、被害者の家族、被害者の恋人や友人がネルシア王国の守護者である『秩序と報恩の神』トールに祈ると、罪人には相応の罰が下るの。それでもひどい生徒はいるわよ。今、学院にいる王女殿下がそう」


「王女様が学院にいるの?」


「そうよ。ロザリンド王女殿下。現在のネルシア王の唯一の娘で、ネルシア学院を卒業した後は神殿に入ることになっていて、だから、今が最後の自由だと言ってやりたい放題。王族だから、皆に傅かれて何不自由のない生活をしているのに、神殿に入るのが嫌だとごねているという噂よ」


「わがままな王女様なんだね」


「そうなのよっ。王女殿下はわたしが学院にいた時に仲良くしてくれていて、お父様が病死した後、わたしが落ちぶれても唯一、変わらずに友人でいてくれている優しい令嬢の婚約者にべったりくっついているの!! 王女殿下に天罰が下ればいいのにと思うわ……!!」


天罰が下ればいいと言いつつ『王女殿下』と敬称で呼んでいるあたり、クロエの複雑な心情が窺える。

そして今、さらっと、クロエの重い家庭環境が暴露されたよね……。

私はクロエの父親が病死した話題を避け、わがままな王女の話題を掘り下げることにした。


「でも、王女様がネルシア学院を卒業した後、神殿に入ったら自由がなくなるの?」


私の言葉にクロエは肯き、口を開く。


「王家の血を引く王女殿下は、純潔を保って……って言ってもリアさんには意味がよくわからないかもしれないけれど……神殿に入り『秩序と報恩の神』トールに祈りを捧げてこの国を覆ってくれている結界を保つという使命があるの。神殿に入る王女は『聖女』または『神の花嫁』と呼ばれるわ」


「それは……ちょっと可哀想……。神殿に入ったら恋愛も結婚もできないっていうことなんだよね」


神殿に入ったら恋愛も結婚もできないのであれば、ネルシア学院にいる時が、最後の自由時間だと主張する王女の気持ちは、わかる。


「今は陛下の妹君のリヴィア王女殿下がつとめを果たしていらっしゃるけれど、ロザリンド王女殿下が18歳になって神殿に入ったらリヴィア王女殿下は神殿をお出になるのよ。リヴィア王女殿下には彼女がつとめを果たし終えて神殿をお出になるのをずっと待ってくれている素敵な婚約者がいらっしゃるの。一途な純愛って憧れるわ……」


それからクロエはリヴィア王女殿下と彼女の婚約者の胸キュンエピソードを語り倒して、私は肯きを繰り返すマシーンと化した。

クロエに恋愛トークを振るのはダメだ。話が止まらなくなる。

でも、クロエとそんなに親しくないのに話をぶった切って自分の興味がある話題に捻じ曲げるコミュ力は、私には無い……。


恋バナマシンガントークを繰り広げていたクロエは、はっとして時計に目を向け、私を見た。


「もうこんな時間……っ。ごめんなさい、わたし、長話をしてしまって。入学式の会場の、講堂に行きましょう」


ようやく私はクロエの恋バナマシンガントークから解放されるようだ。

クロエと私は座っていたベッドから立ち上がり、部屋を出た。


部屋を出た私は首から下げた鍵を扉の鍵穴に差し込んで、回す。

カチャリと音がして、鍵が掛かった。

ドアノブを回して鍵が掛かったことを確認した私は、鍵をブラウスの内側に戻す。


それからお手洗いに行き、私はクロエに先導されて、入学式があるというネルシア学院の講堂へと向かった。

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