第12話 リア・クラークはクロエにネルシア学院の『お手洗い』の場所を聞き『お手洗い』に行く
105号室の中に入った私とクロエは、ベッドに並んで座った。
この部屋、本当に物が少ないんだよね。
床に絨毯が敷いてあるわけでもなく、クッションも無いから二人以上で座る場所がベッドしかない。
転生後に目覚めたリアの部屋には足りない物は無いように思えたし、日本で生きた井上愛子の部屋も、フローリングの床には絨毯が敷いてあって、クッションもあって、友達を部屋に呼ぶこともできた。
井上愛子が友達を部屋に呼べたのは、新型コロナが蔓延する前のことだ。
部屋の時計は11:55を指している。
あ、そうだ。私、クロエに聞いておかなくちゃいけないと思ったことがあったんだ。
「クロエさん、あの、トイレの場所ってどこですか?」
この世界で『トイレ』という言葉は使えるのかという不安を抱きながら、私はクロエに問いかける。
リアの家のトイレはリアの記憶を辿ればどこにあるのかわかったし、使い方もわかった。
でもネルシア学院女子寮には今日、初めて訪れたので、トイレの場所がわからない。
「といれ……?」
まずい。『トイレ』では伝わらない。
私は『トイレ』ではなく、トイレを示す言葉をリアの記憶から探し出す。
あっ。この言葉なら通じるかも?
「あの『お手洗い』はどこですか?」
「まだ場所を教えていなかったわね。ごめんなさい。食堂を出てすぐのところに『お手洗い』の扉があるのよ。ネルシア学院の女性用のお手洗いの扉には『赤い四角』が描かれているの」
クロエはそう言ってベッドから立ち上がり、口を開く。
「今から行きましょう。わたしもお手洗いに行きたい気分よ」
女の子同士、連れ立ってトイレに行くなんて、井上愛子に戻ったみたい。
私はそんなことを考えながらベッドから立ち上がり、そしてクロエと共に自室を出た。
トイレに行ってすぐに戻ってくるからと、部屋の鍵は掛けずに歩き出す。
「でも、女子寮に来る男子生徒とか、男子寮に行く男子生徒とかっていないんですか?」
「付き合ってたりすると、規則破りをする子もいるわ。人望があれば黙っていてもらえるけど、嫌われてたたら密告されちゃうの」
小さく笑みをこぼしてクロエは言う。
モテる子や恋人がいて幸せな子が妬まれるのは、どこの世界も同じなのかもしれない。
規則を破る子が悪いから、密告されても文句は言えない。
私は食堂の扉の前に立ち、左手に『赤い四角』が描かれた扉を見つけた。
あれ? 右手にも同じように『赤い四角』が描かれた扉がある……?
私が視線をさ迷わせていることに気づいたクロエが口を開いた。
「食堂の扉の両側にお手洗いがあるのよ。食堂で働いている人たちもお手洗いを使うから」
「職員用のお手洗いはどっちですか? 生徒はどっちのお手洗いを使えばいいの?」
私がそう問いかけるとクロエは瞬いて、微笑した。
「リアさんは本当に気遣いができるのね。どちらのお手洗いを使っても大丈夫よ。さあ、入りましょう」
クロエはそう言って食堂の扉の左手にある『赤い四角』が描かれた扉を開けた。
この世界のトイレ……お手洗い個室の中に置かれた四角い箱で、箱の底には透明なシートが張られている。
リアの母親に尋ねたら、透明なシートは『スライム板』と言う名前だと教えてくれた。
スライム板が黒く濁ったら、箱の横についている引き出しを引き出して、透明なスライム板と交換するそうだ。
リアの家のお手洗いも、ネルシア学院のお手洗いも悪臭がしなくて嬉しい。
お手洗いを出たらウェットティッシュのようなもので手を拭き、ゴミ箱に捨てる。
私が入った個室の隣の個室からクロエが出てきて『清潔』魔法で手を綺麗にした。
『清潔』魔法って便利。私も絶対に覚えたい。
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