第11話 リア・クラークは食堂で食事を終え、クロエに『清潔』魔法をかけてもらい、自室の105号室に向かう

私は食堂の料理を自分が食べる分だけ取り分け、プリンを一つ取って、自分の分を取り分け終えたクロエと共に会計に向かう。


料理を乗せたトレイを銀色の測りのような物に乗せると金額が表示され、クロエはエプロンのポケットから職員証を取り出して会計担当に渡した。

キャッシュレス決済だ。

私は財布に銀貨を入れて持たされたから、この世界では硬貨が流通していると思っていた。


会計が終わり、クロエは会計担当から職員証を受け取り、エプロンのポケットにしまう。

それから私のトレイを持ち、私に手渡した。

私はトレイを受け取る。……6歳の非力なリアには、トレイが重い。でも重すぎて持てないということはない。


小学校一年生の時の井上愛子も、今のリアのようだっただろうか。

中学一年生の記憶はあっても、小学校一年生だった頃の愛子の記憶はほとんど無い。


料理とプリンを乗せたトレイを持った私はクロエに先導されて、空いているテーブルに向かう。

食堂内にいる生徒たちの顔は、皆明るい。

井上愛子の時の、給食の時間とは全然違う。

やっぱり、人が密集すると感染する病気が無い世界っていいな。


クロエとお喋りをしながら食事を終え、その後、空になった食器を食器返却カウンターに戻す。

パンもおかずもプリンもおいしくて、私はほっとした。

食事がまずいと気持ちが落ちる。


食べ物がおいしいと思えるのは、転生先のこの世界で、楽しく生きられる要素が増えたということだ。

私は美少女で、未来に伸びしろがある子どもで、食べ物がおいしい。うん、いい感じだ。嬉しい。


食器をカウンターに返却した後、食堂の端に寄り、クロエは私に視線を向けて口を開いた。


「リアさん。口の中に『清潔』スキルをかけるので口を開けてください」


ファンタジーな世界観を今、私は再び目撃する……!!

実はリアとして生きて、リアの母親に『清潔』スキルをかけてもらったことがあるのだけれど、でも『自分自身』が体験すると思うと気持ちが上がる。


日本で生きた、転生前の井上愛子は数多のファンタジー小説を読み、概念や空想としての魔法には親しんできたけれど、本物の魔法を見たことはない。


内心の興奮を悟られないように気をつけながら、私はクロエに言われた通りに口を開けた。

リアの記憶では、毎夜、夕食後にリアの母親に口の中や髪、身体に『清潔』魔法をかけてもらっていたし『私』になってからも、リアの母親に口の中や髪、身体に『清潔』魔法をかけてもらっていたけれど、でも、何度やってもらってもわくわくする。


「条件指定『リアさんの口の中』スキル発動『清潔』」


クロエの『清潔』スキルが発動した。

口の中がすっきりしている。舌で歯の裏側を確認したら、つるつるだ。

歯医者さんで歯のクリーニングをしてもらった後みたい。すごい。

『清潔』スキルをかけてもらった後は、いつも感動する。


入学式が終わったら、私もスキルを使えるようになるのだろうか。

クロエが言っていた『スキルボード』というのが気になる。

私の口の中に『清潔』魔法をかけたクロエは、自分の口の中にも『清潔』魔法をかけ、それから私に視線を向けて微笑んだ。


「入学式まで時間があるので、リアさんの部屋に行く? それとも学院内を歩いてみる?」


私は少し考えて、口を開いた。


「私の部屋に行きたいです。部屋でクロエさんとお話したいです。いいですか?」


「ええ、もちろんいいわよ。ではリアさんの部屋に行きましょうね。今度はリアさんが私を先導してね」


クロエは私が食堂から私の自室の105号室に帰り着けるか確かめたいようだ。

ただ真っ直ぐ歩くだけだから、迷ったりしない。


私は食堂を出て、クロエを先導して廊下を歩き、自室の105号室の扉の前に到着した。

首から下げている部屋の鍵を使って鍵を開け、部屋の中に入る。

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