第4話 リア・クラークはネルシア学院の石造りの門で在校生のキャサリン・ハワードと出会う

転生してリア・クラークとして目覚めた翌日、馬車に乗り、王都の東地区にあるネルシア学院に向かった。

寮で暮らすための洋服や日用品はすでにネルシア学院に送られていて、私が持っているのはハンカチと財布が入った手提げ鞄だけだ。


私が転生したリア・クラークは、金髪に青い目の愛らしい容姿の少女で、現在6歳。

転生前の私……中学一年生の井上愛子は12歳だったので、半分の年齢になったことになる。


転生とかそんなの、小説の中の出来事だと思っていたけれど、実際に自分の身に起きてしまったのだから順応するしかない。

井上愛子としての私はどうなったのかとか、日本の家族のことは少し気になるけれど、それ以上にリアとして過ごすのが楽しい。

だって、リアってすごく可愛い女の子なんだよ……!!


今着ている、ピンク色のワンピースもすごくよく似合っている。

馬車には白や花柄の布で作られたクッションが敷き詰められ、揺れて跳ねてもお尻へのダメージは少ない。


私の中にはこの世界で6年間生きたリアの知識と12歳まで日本で生きた井上愛子の記憶がある。

リアは学校に行ったことがないけれど、井上愛子は幼稚園、小学校、中学校まで経験している。

井上愛子の知識を持った6歳の美少女、リア。

私にはリアを溺愛してくれる父親と、美人でしっかり者の母親という家族、そしてリアが後を受け継ぐクラーク商会がある。


新型コロナが蔓延して先が見えず、漠然とした不安が未来を覆っていた日本に生きる井上愛子より、リア・クラークの方が楽しい人生を送れる気がする。

今のこの状況が夢でもリアルでも、美少女ライフを楽しみたい。


馬車が停車し、御者が扉を開けて私に微笑む。

彼はリアが今よりずっと子どもの頃からクラーク商会で働いてくれている。

でも、私は彼の名前を知らない。リアは商会で働く人間にまったく興味がなかったからだ。


「お嬢さん、ネルシア学院に着きましたよ」


「ありがとう」


私は御者にお礼を言って、馬車を下りた。

石造りの立派な門だ。濃いグリーンのブレザーにグレーのスカートやズボンを履き、胸に赤いリボンをつけた生徒たちが、門の前に並んでいる。

……私、これから、どこに行けばいいのだろう?


「新入生の方ですか?」


濃いグリーンのブレザーにグレーのスカートを履き、胸に赤いリボンをつけた生徒のひとりが不安げに周囲を見回している私と、困った顔で立ち尽くす御者に気づいて声を掛けてくれた。

肩までの長さの茶色の髪に茶色の目。感じが良いけれど美人とはいえない女子生徒だ。年齢は15歳くらいだろうか。

6歳の私にも、丁寧な言葉で優しく話しかけてくれるのが嬉しい。女子には好かれるタイプだと思う。

こういう女子を恋愛的な意味で狙い撃ちする男子は、見る目があると断言できる。

私は彼女に笑顔を向けて口を開いた。


「はい。新入生のリア・クラークです。私、どこに行ったらいいですか?」


「まずは本人確認の列に並んでください。ご案内しますね。私は在校生のキャサリン・ハワードです」


彼女はそう言った後、所在なさげに立っている御者に視線を向けて言葉を続ける。


「保護者の方はお引き取りいただいて大丈夫ですよ」


「はあ、そうですか」


御者はそう言った後、心配そうに私を見た。

私は御者に肯いて、手を振る。リアの記憶では、日本の『バイバイ』がこの世界にも存在しているから御者にも伝わるはずだ。


「じゃあ、お嬢さん。お元気で」


御者は私に一礼して御者台に乗り、馬車がゆっくりと動き出す。

キャサリンは馬車が見えなくなるまで、黙って私の隣に立っていてくれた。

私以外の入学生らしき人たちが続々と現れる。

彼らは門に待機している在校生に連れられて歩いていく。


「リアさん、行きましょう」


「はい」


キャサリンに促されて私は肯く。

キャサリンは6歳の私の歩みに合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。

私はネルシア学院の石造りの門をくぐり、本人確認をするための場所を目指した。

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