B話 将棋大会後 side唯

最近の千聖ちさとの様子がおかしい。

私との将棋の対局でらしくない手を指している。普段は攻めの手を指してくるはずのところで受けの手を指した。まるで宇宙そらの将棋を追いかけているようだった。たしかに宇宙はこの局面は受けるだろう。千聖の将棋が宇宙に吸い込まれたように感じられた。


最近の千聖の対局観がおかしい。

ついに受けると敗ける局面でさえ受けの手を指すようになった。もう我慢できなくなった私は

「ちぃ宇宙の将棋を引きずりすぎ。ちぃの将棋じゃなくなってるよ」

「あれ私の将棋ってどんなのを指していたけ」

無自覚のまま宇宙の将棋を追いかけて、自分の将棋を見失った千聖を私は見ていられなくなった。だってもし私が学年対抗予選で千聖に勝っていれば千聖のようになっていたのは私だったかもしれないから。


将棋大会から2週間が過ぎた。その頃には千聖の将棋はもとに戻りつつあった。そんなとき宇宙からあの日のことに触れた手紙が千聖の靴ロッカーに入っていたらしい。

「ユイユイ、宇宙からの手紙が入ってた」

「へぇ少し見せて」

「一緒に見よう」

『東雲千聖さんへ

まずあの日のことを謝らせてください。僕は終局後どうすればいいかわからなかったので逃げてしまいました。本当にごめんなさい。

これからも自分の将棋を大事にしていい将棋が指せることを祈っています』

飾らない言葉で書かれていた。宇宙のことが一切書かれていないことに私は安心半分不安半分になった。この日を境に宇宙が学校に来る回数がかなり少なくなった。

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