第2話子爵令息は決闘する。

 学園の訓練場。魔甲アーマーの演習も考慮され、広くつくられている。その1/4を占めるのが、統合演習場である。と、言っても、四方を魔力防御で強化された壁で囲ってあるのと、強力な結界で守られた観客席があるだけだ。ここで王子とアベルの決闘が行われる。もう、暗くなってきているが、その辺りは魔法の明かりが灯り、昼間ほどではないものの、十分な光量は得られている。


 その、闘技場の一方の出入口。魔甲アーマーの運用が前提なので、十分な広さと大きさを兼そろえている。


「いい、無駄に魔力つかわないのよ。あと、命を大事に。怪我もしないように、それと、危ないと思ったら直ぐ降伏。死んだふりも有効ね。あと、あいつ、バカだから小金でも許してくれるわ、この場をなんとかすれば、なんとかなるから、なんとかしてちょうだい」


 エストは、必死な表情でアベルに助言する。アベルは、そんな彼女を見て、微笑む。


`「ああ、わかった。一撃でぶっ飛ばす」


「ちょっと、ひとの話聞きなさいよ」


「ここまで来たら、どうしようもないよ。ああ、しょうがない」


 ヘラヘラと嗤うアベル。そんな彼を見て、エストは怒る。


「なに笑ってるのよ、あんた、状況分かってるの? まず命があぶないし、勝ったとしても不敬罪。良くて国外追放よ。私のために人生捨てないで」


 アベルは、困ったようにエストを見た。そして頭をかく。


「いや、僕、死ぬつもりはないよ。最悪、逃げるから。ま、土下座すれぱ許してくれるだろ」


「今ので何にも考えてないのわかった。とりあえず生き延びてね。わたし、あんたのために動くから」


 エストは、すぐに振り返り、その場を去った。


 アベルは、エストの後ろ姿を見て、後ろの愛騎に乗り込む。


 王国正規魔甲アーマー二式。大きさは人の二倍強。装甲、機動力、魔力、全て平均的で、最も生産されている魔甲アーマーである。アベルは、中古で買った魔甲アーマーに、シェフィールドと名付けている。ちなみに三代目で、初代は猫だった。


 アベルは、魔甲アーマーに乗り込み、魔力を込めて動かす。そして、魔甲アーマー用の盾と、小剣をもたせた。王国の剣技は、盾を中心とした、防御主体のものである。


 そして、シェフィールドを闘技場に進めた。意外に多くの人が観戦に来ている。


 アベルは、呑気にシェフィールドに剣を振らせた。騒がしいが、何を言っているか気にしない。


 やがて、マリウス王子の魔甲アーマーが入ってきた。真っ白で、頭部に剣のような角飾りをつけている。ラウンドシールドと魔丈ロッド(攻撃魔法を使う為の杖)の機能を持った魔法剣を装備している。王国正規魔甲アーマー二式改。メリクル、である。


「逃げなかったようだな。反逆者」


 マリウスは、魔甲アーマーの通信機能を使い話してきた。


「王家の方が、間違った道にすすむのを正すのは騎士の本懐。その為なら命をも捨てる覚悟は出来ております」


 アベルは、マリウスに返事する。勿論建前だ。それを聴き、マリウスはふん、と鼻をならす。


「王国の為とか大層なお題目を掲げているが、あいつがいないと貴族の優位を崩す様なことになる可能性がある。それは危険だ。国を割るかもしれぬ。それがわからん訳でもなかろう。前言を撤回しろ。ならば、命だけは助けてやる」


「僕の意思はかわりません。エスト……様を解放してほしい。その程度のこと。あなたに出来ぬはずがない」


「残念だ。あいつがいなけれは、王国の基礎は潰れてしまう。だから、次期国王の妻でなければならない。もっとも理解出来んみたいだがな。本当に残念だ。だが、その無謀さは評価してやるよ。じゃあ、始めよう」


 その台詞とともに、闘技場に、重装甲の魔甲アーマーが入ってきた。王国正規魔甲アーマー三式。力と装甲の厚さに特徴がある騎体だ。大盾に大剣を持っている。乗っているのは王子の近衛、ライだろう。


 更にその後ろから軽装の魔甲アーマー魔丈ロッドを二つ持ってはいってくる。王国正規魔甲アーマー一式。こちらはレフが乗っているのだろう。それを見て、アベルは驚いた。そして、焦る。


「ち、ちょっと、ひ、ひきようでしょう。決闘ですよ。普通一対一じゃないてすか」


 アベルの抗議にマリウスはせせら笑う。


「誰も一対一の決闘とは言ってない。第一、反逆するのは騎士の本望だろう? 残念だったな。おとなしくなぶられろ」


 ここで、闘技場内に魔法の音声案内が響きわたる。


「これより、マリウス王子とアベルの決闘を開始する」


 アベルは、マリウス王子側を見た。彼らは、ライの二式を全面に。マリウスはその右後ろ。レフは左側後ろに入った。


 位置を把握すると、アベルは、盾を掲げる。


「先手必勝!加速アクセル!」


 アベルは、シェフィールドをライの三式魔甲アーマーに向けてスキルを使い、加速した。シェフィールドの右足から魔力が放出され、弾丸のようにライの三式に向かう。


「甘い」


 が、ライも王子の近衛。三式が、大盾を構え、シェフィールドを迎撃する構えをとる。更にマリウスのメリクルと、レフの一式が攻撃魔法、火炎弾ファイヤブレッドを放つ。しかし、慌てているのか、狙いが外れて爆発を引き起こす。


加速アクセル


 シェフィールドは、左足から加速アクセルを発動。強引に進路を進路を変え、レフの正面に向かう。盾を構えてレフの軽装型魔甲アーマー一式に正面から衝突する。軽装型の一式は、吹き飛ばされ、転倒する。大の字に上を向いた一式の胴体に小剣を突き立てる。一式は、痙攣し、動かなくなった。


「まずは、一騎」


 アベルはシェフィールドの姿勢を立て直す。しかし、王子側も黙ってはいない。


「よくも、レフを!」


 ライの三式が盾を構えて突撃してくる。アベルはシェフィールドに盾を構えさせて三式の方をむく。


 三式は、多少右側に騎体をずらす。アベルはそれにあわせて動いた。メリクルが、攻撃魔法を撃つつもりだろう。しかし、アベルは三式をシェフィールドとメリクルの間に挟めることにより、射線を通さない。


「こざかしい!」


 ライは、怒りとともに、三式をシェフィールドにぶち当てる。盾同士の激突。

魔甲アーマーは、使用者の魔力を使うため、その能力も反映させる。そして、ライは王国騎士剣術の使い手。盾を主に使い、隙を見て必殺の一撃を与える。防御主体の剣術。


 アベルもあわせて盾でなぐる。二人の魔甲アーマーの重量を合わせた衝撃は、轟音を辺りに響かせる。更に盾をぶつけ合い、轟音と盾の破片を辺りにばらまく。


 あとは、盾と盾のぶつかり合い。三式が盾ごと体当たりするのをシェフィールドが盾で受ける。うけながら、後退。そして、今度は三式にシェフィールドが突撃。三式がそれを受ける。その、繰り返し。


 ライは、消耗戦を狙っていた。単純に剣の腕なら自分のほうが遥かに上。このままならば、自分が勝つ。万が一自分が負けても無傷なマリウスがいる。決闘に勝利すればあとは、とうとでもなる。だからこそ、ライは時間稼ぎに徹する。


 もちろん、アベルもそれはわかっている。だから、勝負に出た。


加速アクセル


 アベルは、シェフィールドの右足から魔力を放出。至近距離でスキルを使って騎体ごとぶち当たってきた。が、その動きは直線的で、ライには予測かつく。だからこそ、


剛力ストレングス


 自分のスキルをつかい、アベルのシェフィールドを叩き潰そうとした。攻撃力を上げるスキルで大剣の威力が倍増されシェフィールドの盾に振り下ろされる。当たれば盾ごとシェフィールドを叩き潰すことかできる。


加速アクセル!」


 だが、アベルは、強引にスキルを使って回避。右足から魔力を放出してシェフィールドは三式の大剣を紙一重でかわす。大剣は床を砕き、三式は、体勢を崩した。


加速アクセル!!」


 更にシェフィールドは踏み込み、三式の胸に小剣を叩きこむ。更に小剣を連撃。何回か胸甲を破壊して、三式を機能停止に追い込んだ。


 それを見ていたマリウスは、素直に称賛の声をあげる。


「流石だな。だが、スキルもそろそろ打ち止めだろう。来い」


「いや、これで、二敗、です、大人、しく、負け、を、みとめ、て、下さい」


 アベルは、最早息も絶え絶えの様子。それに対してマリウスはかなり余裕がある。もちろんだ。ほとんど戦ってないのだから。


「ふっ。無傷のメリクルに対して、満身創痍の二式が勝てると思っているのか?」


「勝敗、は、時の、運です」


 呼吸を整えるアベル。その様子を見ながらマリウスは笑った。


「じゃあ、そろそろ落ち着いたところだろう。止めをさしてやる。火炎弾ファイヤブレッド!」


 そういって、マリウスは、メリクルの剣をシェフィールドに向ける。そして、攻撃魔法を放つ。トリガーコード、発射の呪文を唱え、炎弾を連射。そのうちの一発がシェフィールドの左足に当たり破壊する。シェフィールドはうずくまり、盾で身を隠す。が、炎弾は容赦なくシェフィールドを襲う。メリクルは片手で、しかも剣なので、なかなか命中させられない。しかし、至近弾でも威力はあるため、シェフィールドは少しずつダメージをくらう。


「くっ、加速アクセル!」


 アベルは、苦し紛れにスキルを使う。砕けた盾を掲げ、メリクルに近づくが、一歩足りない。


加速アクセル!!」


 再度、スキルを使う。が、シェフィールドの右足は限界だった。魔力の放出に耐え切れず爆散する。が何とか距離は稼いだ。


火炎弾ファイヤブレッド


 しかし、メリクルの炎弾が命中し、シェフィールドの盾が砕け散った。倒れるシェフィールド。その両足は力をうしなっていた。


 それをみて、マリウスは嗤った。


「はは、ざまないな。安心しろ、お前は殺さない。ちゃんとこの先を見せてやるからな。俺が、あいつを使い潰すさまをな」


 メリクルは、盾を捨てた。そして、両手で剣を構え、シェフィールドを狙う。次の攻撃は、外さないだろう。


 シェフィールドは両足を失いた姿だが、体を起こした。盾を失った左手は、騎体を支えるため、後ろにおかれている。右手は剣を持ち、最後まで戦う意思を示した。しかし、その剣は届かない。


「では、とどめだ。火炎弾ファイヤブレッド


加速アクセル!」


 メリクルは炎弾を放った。しかし、シェフィールドはスキルで回避。左手からの魔力放出で、メリクルに近付いたのだ。さらに、アベルはスキルを使う。


加速アクセル!!」


 左手を砕き、更に加速してメリクルに突っ込んだ。やや、下から懐に飛び込むシェフィールド。その剣はメリクルの胸を貫く。


 メリクルは、機能を停止した。


 シェフィールドの、残った右手は天高く掲げられた。


 アベルは、勝利した。

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