第2話子爵令息は決闘する。
学園の訓練場。
その、闘技場の一方の出入口。
「いい、無駄に魔力つかわないのよ。あと、命を大事に。怪我もしないように、それと、危ないと思ったら直ぐ降伏。死んだふりも有効ね。あと、あいつ、バカだから小金でも許してくれるわ、この場をなんとかすれば、なんとかなるから、なんとかしてちょうだい」
エストは、必死な表情でアベルに助言する。アベルは、そんな彼女を見て、微笑む。
`「ああ、わかった。一撃でぶっ飛ばす」
「ちょっと、ひとの話聞きなさいよ」
「ここまで来たら、どうしようもないよ。ああ、しょうがない」
ヘラヘラと嗤うアベル。そんな彼を見て、エストは怒る。
「なに笑ってるのよ、あんた、状況分かってるの? まず命があぶないし、勝ったとしても不敬罪。良くて国外追放よ。私のために人生捨てないで」
アベルは、困ったようにエストを見た。そして頭をかく。
「いや、僕、死ぬつもりはないよ。最悪、逃げるから。ま、土下座すれぱ許してくれるだろ」
「今ので何にも考えてないのわかった。とりあえず生き延びてね。わたし、あんたのために動くから」
エストは、すぐに振り返り、その場を去った。
アベルは、エストの後ろ姿を見て、後ろの愛騎に乗り込む。
王国正規
アベルは、
そして、シェフィールドを闘技場に進めた。意外に多くの人が観戦に来ている。
アベルは、呑気にシェフィールドに剣を振らせた。騒がしいが、何を言っているか気にしない。
やがて、マリウス王子の
「逃げなかったようだな。反逆者」
マリウスは、
「王家の方が、間違った道にすすむのを正すのは騎士の本懐。その為なら命をも捨てる覚悟は出来ております」
アベルは、マリウスに返事する。勿論建前だ。それを聴き、マリウスはふん、と鼻をならす。
「王国の為とか大層なお題目を掲げているが、あいつがいないと貴族の優位を崩す様なことになる可能性がある。それは危険だ。国を割るかもしれぬ。それがわからん訳でもなかろう。前言を撤回しろ。ならば、命だけは助けてやる」
「僕の意思はかわりません。エスト……様を解放してほしい。その程度のこと。あなたに出来ぬはずがない」
「残念だ。あいつがいなけれは、王国の基礎は潰れてしまう。だから、次期国王の妻でなければならない。もっとも理解出来んみたいだがな。本当に残念だ。だが、その無謀さは評価してやるよ。じゃあ、始めよう」
その台詞とともに、闘技場に、重装甲の
更にその後ろから軽装の
「ち、ちょっと、ひ、ひきようでしょう。決闘ですよ。普通一対一じゃないてすか」
アベルの抗議にマリウスはせせら笑う。
「誰も一対一の決闘とは言ってない。第一、反逆するのは騎士の本望だろう? 残念だったな。おとなしくなぶられろ」
ここで、闘技場内に魔法の音声案内が響きわたる。
「これより、マリウス王子とアベルの決闘を開始する」
アベルは、マリウス王子側を見た。彼らは、ライの二式を全面に。マリウスはその右後ろ。レフは左側後ろに入った。
位置を把握すると、アベルは、盾を掲げる。
「先手必勝!
アベルは、シェフィールドをライの三式
「甘い」
が、ライも王子の近衛。三式が、大盾を構え、シェフィールドを迎撃する構えをとる。更にマリウスのメリクルと、レフの一式が攻撃魔法、
「
シェフィールドは、左足から
「まずは、一騎」
アベルはシェフィールドの姿勢を立て直す。しかし、王子側も黙ってはいない。
「よくも、レフを!」
ライの三式が盾を構えて突撃してくる。アベルはシェフィールドに盾を構えさせて三式の方をむく。
三式は、多少右側に騎体をずらす。アベルはそれにあわせて動いた。メリクルが、攻撃魔法を撃つつもりだろう。しかし、アベルは三式をシェフィールドとメリクルの間に挟めることにより、射線を通さない。
「こざかしい!」
ライは、怒りとともに、三式をシェフィールドにぶち当てる。盾同士の激突。
アベルもあわせて盾でなぐる。二人の
あとは、盾と盾のぶつかり合い。三式が盾ごと体当たりするのをシェフィールドが盾で受ける。うけながら、後退。そして、今度は三式にシェフィールドが突撃。三式がそれを受ける。その、繰り返し。
ライは、消耗戦を狙っていた。単純に剣の腕なら自分のほうが遥かに上。このままならば、自分が勝つ。万が一自分が負けても無傷なマリウスがいる。決闘に勝利すればあとは、とうとでもなる。だからこそ、ライは時間稼ぎに徹する。
もちろん、アベルもそれはわかっている。だから、勝負に出た。
「
アベルは、シェフィールドの右足から魔力を放出。至近距離でスキルを使って騎体ごとぶち当たってきた。が、その動きは直線的で、ライには予測かつく。だからこそ、
「
自分のスキルをつかい、アベルのシェフィールドを叩き潰そうとした。攻撃力を上げるスキルで大剣の威力が倍増されシェフィールドの盾に振り下ろされる。当たれば盾ごとシェフィールドを叩き潰すことかできる。
「
だが、アベルは、強引にスキルを使って回避。右足から魔力を放出してシェフィールドは三式の大剣を紙一重でかわす。大剣は床を砕き、三式は、体勢を崩した。
「
更にシェフィールドは踏み込み、三式の胸に小剣を叩きこむ。更に小剣を連撃。何回か胸甲を破壊して、三式を機能停止に追い込んだ。
それを見ていたマリウスは、素直に称賛の声をあげる。
「流石だな。だが、スキルもそろそろ打ち止めだろう。来い」
「いや、これで、二敗、です、大人、しく、負け、を、みとめ、て、下さい」
アベルは、最早息も絶え絶えの様子。それに対してマリウスはかなり余裕がある。もちろんだ。ほとんど戦ってないのだから。
「ふっ。無傷のメリクルに対して、満身創痍の二式が勝てると思っているのか?」
「勝敗、は、時の、運です」
呼吸を整えるアベル。その様子を見ながらマリウスは笑った。
「じゃあ、そろそろ落ち着いたところだろう。止めをさしてやる。
そういって、マリウスは、メリクルの剣をシェフィールドに向ける。そして、攻撃魔法を放つ。トリガーコード、発射の呪文を唱え、炎弾を連射。そのうちの一発がシェフィールドの左足に当たり破壊する。シェフィールドはうずくまり、盾で身を隠す。が、炎弾は容赦なくシェフィールドを襲う。メリクルは片手で、しかも剣なので、なかなか命中させられない。しかし、至近弾でも威力はあるため、シェフィールドは少しずつダメージをくらう。
「くっ、
アベルは、苦し紛れにスキルを使う。砕けた盾を掲げ、メリクルに近づくが、一歩足りない。
「
再度、スキルを使う。が、シェフィールドの右足は限界だった。魔力の放出に耐え切れず爆散する。が何とか距離は稼いだ。
「
しかし、メリクルの炎弾が命中し、シェフィールドの盾が砕け散った。倒れるシェフィールド。その両足は力をうしなっていた。
それをみて、マリウスは嗤った。
「はは、ざまないな。安心しろ、お前は殺さない。ちゃんとこの先を見せてやるからな。俺が、あいつを使い潰すさまをな」
メリクルは、盾を捨てた。そして、両手で剣を構え、シェフィールドを狙う。次の攻撃は、外さないだろう。
シェフィールドは両足を失いた姿だが、体を起こした。盾を失った左手は、騎体を支えるため、後ろにおかれている。右手は剣を持ち、最後まで戦う意思を示した。しかし、その剣は届かない。
「では、とどめだ。
「
メリクルは炎弾を放った。しかし、シェフィールドはスキルで回避。左手からの魔力放出で、メリクルに近付いたのだ。さらに、アベルはスキルを使う。
「
左手を砕き、更に加速してメリクルに突っ込んだ。やや、下から懐に飛び込むシェフィールド。その剣はメリクルの胸を貫く。
メリクルは、機能を停止した。
シェフィールドの、残った右手は天高く掲げられた。
アベルは、勝利した。
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